議論で相手に勝つにはどうすればいいのか。元財務官僚で経済学者の高橋洋一氏は、「議論で勝つには信頼できるファクトとデータを示さなければいけない。そのために大切なことは『川を上り、海を渡れ』という原則だ」という——。

※本稿は、髙橋洋一『ファクトに基づき、普遍を見出す 世界の正しい捉え方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

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「川を上り、海を渡れ」

「高橋さんの議論における強さの秘訣は、どこにあるんですか?」などと聞かれることは多いのだが、これに対する筆者の答え、というか心がけていることは非常にシンプルだ。

川を上り、海を渡れ——。

これは、筆者が財務省(当時は大蔵省)に入省してまだ間もない頃、報告書を作成していたときに先輩から受けた指導である。

もちろんこれは比喩表現であって、「川を上る」というのは、「歴史をさかのぼって過去の経緯を調べる」ということ、「海を渡る」というのは、「海外の事例を調べる」ということを意味している。

大学では数学を専攻し、数量分析で現状を把握し将来をも予測できると考えていた筆者にとって、この方法論はシンプルながらも思考の裾野を大きく広げてくれるものであった。

なぜならば、ある事柄の始まりから終わりに至る過去の経緯と、最低でもG7、理想的にはG20加盟国分くらいの海外の具体的事例というファクトを集めていくと、いつの時代、どこの地域にも共通する普遍的なルールというものが自然と見えてくるからである。そうして、時間的な広がりを持つタテの軸と、空間的な広がりを持つヨコの軸が通った、強い論考というのが生まれてくる。

「なんだ、そんな当たり前ことなのか」と思われるかもしれないが、世の中にはこの当たり前なことができている人がほとんどいない。学者や経済を専門とする記者の中にも、自分に都合のいいように一部の偏ったデータを取り出して議論をふっかけてくる人が少なくないし。

したがって、こうした論客に対しては、厳然たるファクトとデータを示してやればそれでこと足りることがだいたいなのである。