不倫は文化なのか。東京大学史学編纂所教授の本郷和人氏は「長らく日本は男女の性に対しては非常におおらかなお国柄でした。恋愛について、四角四面で怒るようになったのは、江戸時代の武家社会やその影響を受けた明治以降。『源氏物語』を見る限りは、長い日本の歴史において、不倫は文化のひとつだったようです」という——。

※本稿は、本郷和人『空白の日本史』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

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日本文化の中心にあるもの、それは「恋」

平安時代は、日本の歴史を振り返ってみても、非常に平和な時代でした。戦争がなく、外圧もない。予定調和的で変化がないし、どう考えても産業革命などは起きそうにもない。でも、だからこそ、平安時代は女性が活躍できる素地が整っていた時代でもありました。

でも、平安時代は戦いがない時代なので、戦いにそれほど重きは置かれません。すると、女性がどんどん進出し、活躍します。実際、女性である紫式部が書いた『源氏物語』が当時の代表的な作品と呼ばれていたことからも、貴族社会において女性の地位は非常に高かったはずです。

平安時代当時に『源氏物語』を読むことができた人間がどれだけいたのかといえば、ほんの一握りの貴族だけだったことは確かでしょう。高貴な女性たちのサロンで生まれた作品を、この時代の代表作とするのは、一般の農民たちにしてみれば遺憾かもしれません。

でも、美というものが、どうしても一種のスノビズム、俗物性を孕んでいるなかで、それをどう磨いていくのかが肝心です。その美しさを極限まで磨いていった貴族社会において、日本文化の中心にあるものは何だったのか。

その問いに対して、小説家の丸谷才一さんは「恋だ」と指摘しています。たしかに、平安時代の貴族文化の中心にあるのは何と言っても和歌である。これに、反対する人はいないでしょう。