東ちづる

1960年、広島県生まれ。ドラマ、司会、講演、出版などの各分野で幅広く活躍中。92年より骨髄バンク、ドイツ平和村、あしなが育英会などのボランティア活動をスタート。8年前からは障害者アーティスト支援の活動も始め、今後は、被災地支援チャリティー展「よりそう」で全国巡回を予定している。食育のシンポジウムにも参加。最新著は『らいふ』(講談社刊)。現在、テレビ朝日系列の「 モーニングバード 」(水曜・朝8 時)や、TOKYO FMの「Dream Heart」(日曜・22時半)などにレギュラー出演中。


 

私のお気に入りは、オープンキッチンのお店。カウンター席に座れば調理の技が全部見えて、まさにライブ最前列の臨場感が味わえます。料理人との会話も醍醐味のひとつ。「このソース、どうやって作るの?」。腕に自信のある料理人なら気軽にレシピを教えてくれます。カウンター越しに顔を合わせながらのちょっとした交流が心のご馳走になります。

3月の震災以降、「人と食卓を囲む」ことのありがたさを改めて感じています。約20年前に始めたボランティア活動の仲間が、震災直後に都内スーパーから食品が消えたことを心配し、全国から地元の名産品を送ってくれました。せっかくのご厚意なので、早速、友人や知人にメール。「みんな、ウチにおいでよ」。こういうときこそ支え合いです。同じマンションに住む一人暮らしのおばあちゃんにも声をかけました。

以来しばらくの間、私と夫は毎日のように大勢のお客さんと夕食を共にしました。節電のためキャンドルを灯し、身を寄せ合い毛布にくるまりながら。みんな相次ぐ余震で不安いっぱいでした。でも食の時間をシェアし、会話が弾むと恐怖感が少し和らぎます。やがて全員がほっと安堵した表情になり、元気を取り戻せたのです。この満ち足りた感覚は、“オープンキッチン席”で私が味わっていたのと同じものだったと思います。

今の時代、同じ家に住みながら家族がそれぞれ一人黙って食べる世帯や、3食ともファストフードですませる人もいます。でも食事がそんなおざなりで味気ないものでは哀しい。

私が理想とする食卓の原風景は、広島・因島の実家です。時代劇の舞台のような古びた木造平屋の長屋暮らし。裕福とは無縁の生活でしたが、食は充実していました。何しろ朝食から鉄板焼きも珍しくないくらい(笑)。食卓にはいつも尾頭付きの海の幸や、旬の山の幸が並び、両親と妹の家族4人、ハートフルな空気に包まれていました。

幼少時から私は包丁を握り、暇さえあれば料理本や料理番組を研究していました。初めて料理したのは小学校2年のとき。一人で台所に立ち、魚肉ソーセージをバターで炒め、お酒をジャッ、お醤油をジュッと注ぎ入れました。それを一口食べた妹は、「お姉ちゃん、これ美味しい!」。その目の輝きを見た瞬間、私は料理に目覚めたのです。

今では、トムヤムクンのスープを肉じゃがに使ったり、もらったポルチーニ茸を生クリームではなく低カロリーの豆乳でパスタソースを作ったり、新しい食材も自分なりにアレンジしながら楽しんでいます。例のカウンター席で仕入れた“情報”もどんどん生かしながら、私はこれからも夫や友人たちと共にする食卓に笑顔の花を咲かせたいと思います。