認知症を40年以上研究してきた専門医の長谷川和夫氏は、このほど自身が認知症になったと公表した。長谷川氏は「かつて患者さんから『どうして私がアルツハイマーになったんでしょうか。ほかの人じゃなくて』と聞かれて答えられなかった。いまではその患者さんの思いがよくわかる」という――。

※本稿は、長谷川和夫・猪熊律子『ボクはやっと認知症のことがわかった 自らも認知症になった専門医が、日本人に伝えたい遺言』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

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自分の体験の「確かさ」が揺らぎ始めた

どうもおかしい。前に行ったことがある場所だから当然たどり着けるはずなのに、行き着かない。今日が何月何日で、どんな予定があったのかがわからない。どうやら自分は認知症になったのではないかと思いはじめたのは、2016年ごろだったと思います。

自分の体験の「確かさ」が、はっきりしなくなってきたのです。自分がやったことと、やらなかったことに対して確信がもてない。たとえば、自宅を出てどこかへ出かけるとき、鍵をかけたかどうか不安になっても、たしかに鍵をかけたと思えば、そのまま出かけるのが普通です。あるいは不安なら、一度戻って鍵がかかっているのを確認して、それ以上は心配せずに出かけます。それが正常なときの反応。

でも、確かさが揺らいでくると、家に戻って確認したにもかかわらず、それがまたあやふやになって、いつまでたっても確信がもてないのです。

「確かさ」が揺らぎ、約束を忘れてしまうといったことが増えてきて、自分の長い診療経験から、「これは年相応のもの忘れではなく、認知症にちがいない」と思うに至りました。