過剰になりがちな仕様を簡略化、コスト抑える

コンロ用のカセットガスを専用ケースに入れてハンドルの根元に取り付ける。1時間の連続使用が可能。
コンロ用のカセットガスを専用ケースに入れてハンドルの根元に取り付ける。1時間の連続使用が可能。

そこで晩秋を迎えるころ、北條さんは年来のもやもやを吹っ切るように、部下5人とともに「山へこもった」。新潟県・越後湯沢の宿泊所で2泊3日のブレーンストーミングを行ったのである。そして山ごもりによって磨き上げたアイデアを、社内へ持ち帰って自信満々で披露したのだが……。

「カセットガスを使う? いまさらなんで?」

意外にも、反対意見があちこちから湧き出してきたという。というのも、カセットガスをエンジンの燃料に使うというプランは数年前に着手済みで、当時のやり方では製造コストがかかりすぎることから商品化されずお蔵入りになっていたのである。

しかし、山ごもりの中で徹底的な議論を繰り返した結果、北條さんたちは「カセットガス式はガソリン式よりも決定的に優れている」という確信を得ていた。たとえば次のような不便がガソリン式にはある。

自動車とは違って、耕運機のガソリンタンクは密閉性が完璧とはいいがたい。注入口をきつく締めても、いくらかは隙間から揮発し、周囲にガソリン臭を振りまくことになる。そのため物置など戸外の収納場所に保管するしかないのだが、一般の家庭ではそれだけのスペースを確保するのは難しい。

また、シーズンオフには必ずタンクからガソリンを抜いて保管しなければならないが、これもプロ農家ではない一般家庭ではストレスのもとになっている。

そこで最終的には、カセットガス式を採用するとともに、本体を折りたたんで「セダンのトランクにも収納できる」(北條さん)ほどのコンパクトさを実現し、さらに、土まみれになった耕運爪を簡単に包み込むカバーを標準装備する、というアイデアが生まれてくるのである。

だが、そのときはまだ「カセットガス式エンジン」にゴーサインが出ていない状況である。北條さんたちは、製造コストをいかに切り下げるかに知恵を絞った。

たとえば「ガソリンに比べて低温始動性が劣る」という欠点を補うために、従来のカセットガス式エンジンではガスを温める機構にコストをかけていた。しかし「家庭菜園なら霜柱が立つようなときは使わないはず」(北條さん)と見切りをつけて、過剰になりがちな仕様を見直していった。そのうちに反対意見は後退していき、結局はいま見るようなピアンタとして結実するのである。

ところで、肝心の使い勝手はどうなのか。

北條さんにすすめられ、スーツ上下に長靴を履いてピアンタのハンドルを握ってみた。カセットガスの着脱はコンロと同様にきわめて簡単だ。スターターを引くとエンジンは一発で始動した。これで連続1時間、土を耕すことができるというのだから、パワーも持続性も家庭菜園やガーデニング用としては十分だろう。この商品に飛びついた趣味人たちの気持ちがわかるような気がした。

(芳地博之=撮影)