この芸は今年の秋の文化庁芸術祭……、不参加でございます

たいこもちという仕事は、踊りも唄もしますが、自分が主役になってはいけないんですよ。芸者さん、お三味線のお姐さん、ひいきにしてくださるお客さん、その間を取り持ってね、あの手この手で酒宴を楽しく盛り上げるのが仕事になります。

幇間(たいこもち) 櫻川七好氏

楽しくと申し上げても、私たちの笑いというのは、テレビのお笑いとはちょっと違うところがあるんですね。花柳界というのは、お座敷を貸し切って、日本髪の芸者さんが踊ってくれて、日常とは違う空間で、お客様に会社のことや日常のことを忘れて、お酒やお料理を楽しんでいただく。目の前で芸者衆の踊りが見られる贅沢な時間です。そんなときにどこそこの会社が、なんて固有名詞を出すのは差し障りがありますし、政治の話や宗教の話も難しい。家庭の匂いもさせてはいけない。主役はお客様ですから。自分がしゃべりすぎてもいけないわけです。

だから、笑いをとるときも、お客様の邪魔にならないように、上品に、洒脱にできたらいいなと思います。例えばお客様が芸者さんを気に入ったようなら、こんなことを言います。「旦那が気に入った芸者さんがいたら私に言ってくださいよ。うまく取り持ちますから」。ただし「でも別料金になります」とオチをつけたりね。お酌をするときも、「さすが旦那! お目が高い、世界で一番売れているビールでございます」と言いながら注ぐんですね。自分の芸を褒めていただいたときは「この芸は今年の秋の文化庁芸術祭……、不参加でございます」とオチをつけます。