働き盛りのうちに「がん」が発覚したら、どうすべきか。治療に専念しようと退職する人も多いが、それはやめたほうがいい。東京女子医科大学病院がんセンターの林和彦センター長は、「3人に2人は治り、仕事にも復帰できる。ただし退職すると再就職は難しい。仕事を辞めてはいけない」という――。
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せっかくがんが治ったのに、多くの優秀な人材が企業から再就職を拒まれている――。(※写真はイメージです)

仕事を辞める必要のない人まで辞めている

がん教育に力を入れてきた私が、今もっとも関心を寄せているのは、がん経験者の社会復帰です。

日本人の多くは、がんに対して大きな誤解を抱いています。ほとんどの方は、「がんになったら必ず死ぬ」ぐらいに思っているのではないでしょうか。実際にはがんの死亡率は下がり続けており、直近では5年生存率が66.4%まで上がってきています。つまり3人に2人は、がんが見つかったとしても助かるのです。

しかし、この事実はほとんど知られていません。どこで講演会をやってもみな、「治る人もいるだろうけど、死ぬ人のほうがずっと多い」と思っています。

その結果、何が起きているでしょうか。がんになった勤務者のうち、34%の方が仕事を無くしています。その多くは自主的に退社しており、くわしく調査すると、退職者のうち32%は診断が確定したとき、さらに9%が診断確定から治療開始までの間に退職しているのです。

治療が始まって体力が落ち、「これではとても仕事は続けられない」という状況になって辞めるのであればまだ理解できるのですが、実際には治療が始まってもいないうちに辞めてしまう人が4割以上いるわけです。

こうした人はみなさん、真面目です。そういう人が「私の人生はもう終わり」と思い込んだり、「他の人に迷惑をかけたくない」「今は治療に専念して、治ったら復職しよう」と考えたりして退職しているのです。

先に述べたように、がんと診断された人の3人に2人は治ります。しかし、いったんがん治療のために退職してしまうと、病気を克服した後に以前のような条件で再就職するのは極めて困難です。30~40代の働き盛りであっても、本当に仕事がないのです。