和食のファストフードの中心的存在、牛丼チェーン。熾烈な競争を繰り広げているのは価格だけではない。飲食チェーンに詳しい稲田俊輔氏は、「差別化の結果、吉野家、松屋、なか卯、すき家の“牛丼四天王”の味にはそれぞれの個性がある」という——。

※本稿は、稲田俊輔『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/kokkai
※写真はイメージです

「和風ファストフード」というジャンルは牛丼から始まった

「和風ファストフード」という、飲食店のジャンルを示す言葉があります。多くの方にとって耳慣れない言葉だと思います。どちらかというと、飲食業界の用語ですね。どういう店を示すかというと「カウンター主体の小規模店舗で、和食・米飯をメインにメニュー数を絞り、安価かつクイックに料理を提供する食事主体店」。簡単に言うと「吉野家みたいなお店」です。

吉野家から始まったこのスタイルですが、その後を追うように類似の牛丼チェーンが勃興してきます。松屋、なか卯、すき家などです。かつて「和風ファストフード」というのはほぼイコール「牛丼チェーン」を示す言葉でした。

しかし最近では牛丼店以外のチェーンも増えています。天丼をメインとする「てんや」、カツ丼の「かつや」などが代表的です。どちらも「もし吉野家みたいな天丼屋さんやカツ丼屋さんがあったら」という発想のもとに開発されたことは想像に難くありません。

さらには、ファミレスのガストの吉野家スタイル版とも言えるSガストや、現在はなくなったがCoCo壱番屋のFSココイチなど、和食以外の分野にもこの形態は広がりを見せています。

私がプロデュースする東京駅八重洲地下街の「エリックサウス」という南インド料理専門店は、チェーン店ではありませんがインド料理店としては前代未聞の、この吉野家スタイルを取り入れたお店です。いずれのケースでもこのスタイルは、席効率や提供効率を上げ、低価格でクイックに食事を提供するためにはたいへん優れた形態と言えます。