P&Gは1837年創業当時、ろうそくや石けんを作る地方の一企業だった。今では世界最大の消費財メーカーに成長し、その座を守り続けている。その理由は何か。経営学者のハワード・ユー教授は「P&Gは消費者心理を理解していなかったら、これらすべてのことは成し得なかっただろう」という——。

※本稿は、ハワード・ユー著・東方雅美訳『LEAP ディスラプションを味方につける絶対王者の5原則』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

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「獣脂ろうそく」と「まつやに石けん」が主力商品だった

ウィリアム・プロクターとジェームズ・ギャンブルは事業のパートナーであるだけでなく、義理の兄弟でもあった。長年、プロクターとギャンブルは自社の石けんとろうそくをブランド化しようなどとは考えていなかった。

ハワード・ユー著・東方雅美訳『LEAP ディスラプションを味方につける絶対王者の5原則』(プレジデント社)

石けんや衣類、ペンキや香水などの日用品は、各地域でつくられ、販売されるものだった。よろず屋でも小型店でも、行商人であっても、商売といえば対面販売だけの時代だった。P&Gは製品にシンプルな、そのものずばりの名前を付けていた。たとえば、「獣脂ろうそく」「まつやに石けん」「ヤシ石けん」「ラード油」などだ。

石けんをつくるために、ギャンブルは朝4時半に工場に来て釜を火にかける。従業員には、肉のかけらや残り物の脂肪、木の灰などを集めて来させ、まず灰汁あくをつくる。その煮えたぎったどろどろした液体を木の型枠に流し込み、固まるまで4日から5日ほど置いておく。

ギャンブルも含めて、従業員の誰一人として、石けんの製造にどんな化学が作用しているのかほとんど理解していなかった。しかし正直なところ、製品の裏にある化学を理解したとしても、それで違いが生じるわけではなかった。

何より重要なのは原材料を手に入れることだ。都合がよいことに、シンシナティには優れた食肉加工産業があり、P&Gは動物の脂を安く大量に入手することができた。