乾杯の定番に欠かせないビールは、樽生、ビン、缶いずれも同じ工程で造られ、味はまったく同じものだ。それなのになぜ、容器によって味が違うように感じるのか。「ビール好き」を公言するジャーナリストの村上敬氏が、メーカーを直撃取材した——。

中身は同じなのに味が違うと感じる理由

たるもビンも、中には同じビールが入っています。缶も含めて、容器によってビールの造り方を変えることはありません」

そう教えてくれたのは、キリンビールマーケティング本部マーケティング部部長の田山智広氏だ。たしかに容器に合わせて工程を変えれば、製造コストがかさむ。どの容器でも、同じラインで造ったビールを詰めて売るのが合理的だ。

田山智広・キリンビールマーケティング本部マーケティング部部長

しかし、樽、ビン、缶で味が微妙に違うと感じている人は少なくない。それは気のせいかなのかというと、実はそうとも言いきれない。容器によって、出荷後に味が変化する可能性があるからだ。

醸造酒であるビールの敵は、酸化だ。出荷時、ビールは酵母の力によって組成が固定された状態になっているが、酸素に触れることで酸化が始まり、味が変化していく。この変化のリスクが、容器によって異なるのだ。

念のために付け加えておくと、酸化が全面的に悪いわけではない。本当にできたてほやほやビールには硫黄のような「生臭なましゅう」があるが、酸化とともに消えていく。生臭をビールらしいと感じるか、それともにおうと感じるかは好みの問題だ。また、酸化が進むと、中国の老酒ラオチューのような焦げたフレーバーが漂う。これも好みの問題だ。

ただ、メーカー各社が設定するビールの賞味期限は9カ月。メーカー側は、それを過ぎると酸化が進みすぎて本来の味が損なわれると考えているわけだ。