部屋は2畳、ベッドは1メートル、12時間3000円也

ティッシュを抜き取る音さえも、周囲に聞こえてしまう<br><strong>フリーライター 大宮冬洋</strong>●一橋大学法学部卒業。共著に『30代未婚男』など。ブログ「『実験君』の食生活」を主宰。
ティッシュを抜き取る音さえも、周囲に聞こえてしまう
フリーライター 大宮冬洋●一橋大学法学部卒業。共著に『30代未婚男』など。ブログ「『実験君』の食生活」を主宰。

「個室ビデオ店で一晩明かしてみてください。安全なんですかねえ。ウフフフ。あ、私は用事があるので。では!」

夜12時、東京・新橋駅前。編集Kは僕に1万円札を握らせ、逃げるように去っていった。ヒドイ男だ。

新橋駅周辺は個室ビデオ店の激戦区。初心者の僕は大手チェーン店を選び、細長い雑居ビルをエレベーターで6階へ上がった。上の階にある「客室」までは階段で行くというシステムだ。12時間コースで3000円。安すぎて怖くなる。

「いらっしゃいませ。お好きなタイトルを六本までお選びください」

受付の奥にある部屋にはDVDがズラリと並ぶ。アダルトものが9割以上を占めるが、さすがに6本も必要ない。アダルトを3本、一般作を3本選んだ。

木曜日だからなのか、店内ですれ違う客はまばらだった。3人ほど見かけたが、いずれもノーネクタイの地味なスーツ姿の40代男性。ヤクザ風の男はいない。

マンガ喫茶のようなフリードリンクサービスはないので、店内の自動販売機でペットボトルを買った。客室に行く前、従業員に話しかけてみた。

「こないだ大阪で放火事件がありましたね。ここは安全なんですか」

「大丈夫です。ちゃんと階段のスペースは確保してありますし、非常の際には私たちが誘導します」

いったん、建物の外へ出て、非常階段で客室へ上がった。通路に段ボール箱や掃除用具などの障害物はない。非常口への誘導表示もある。見た目では安全性に大きな問題を感じなかった。