スパイ活動は、中国軍の活動や戦略を支える伝統的な手法だ。特に目立つのが、女性が色仕掛けで誘惑する「ハニートラップ」。もちろん日本の男性も標的になる。朝日新聞国際報道部の峯村健司記者が取材した——。(第1回/全2回)

※本稿は、峯村健司『潜入中国 厳戒現場に迫った特派員の2000日』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

写真=Imaginechina/時事通信フォト
建国70周年を記念し、グランドライトショーが行われた上海=2019年10月6日

元米陸軍将校(59)が中国人女性(27)と交際

中国軍によるサイバー空間や宇宙開発など先進分野への進出が目立つ一方で、中国軍の活動や戦略を支える伝統的な手法が、スパイ活動だ。

担うのは、総参謀部(現・連合参謀部)第2部(総参2部)。内外でうごめく数万人と言われる諜報員を束ねている。

多くの日本人が観光で訪れる米ハワイ。地元の連邦地検は2013年3月、元米陸軍将校の男(59)を国防機密漏洩などの罪で逮捕、刑事訴追したと発表した。交際していた中国人女性(27)に米軍の戦略核の配備計画や弾道ミサイルの探知能力、太平洋地域の早期警戒レーダーの配備計画などの軍事機密を漏らしたとされる。

この男は軍歴30年に及ぶベテラン。米太平洋軍司令部に勤務しており、最高機密にも触れることができた人物である。検察によると、2012年に退役して、米軍が契約する防衛関連企業で働いていた。彼は11年5月にハワイで開かれた軍事関係の国際会議で、大学院生として参加していたこの中国人女性と知り合って、翌月には交際が始まったという。