アメリカのトランプ大統領は「アメリカ・ファースト」を掲げ、多国間協議の否定や移民の排除に熱心だ。こうしたアメリカの姿勢はトランプ大統領が落選すれば変わるのだろうか。元外務審議官の田中均氏は「トランプ大統領は分断の『原因』ではなく『結果』だ。次の大統領もアメリカ・ファースト的な政策をおこなうことになる」と指摘する――。

※本稿は、田中均『見えない戦争 インビジブルウォー』(中公新書ラクレ)の一部を、再編集したものです。

写真=AFP/時事通信フォト
ルイジアナ州モンローのモンロー・シビック・センターで話すトランプ大統領=2019年11月9日

二国間交渉では課題は解決しない

現在アメリカは社会保障制度やインフラ再建を含め大きな問題をいくつも抱えている。2018年の中間選挙で下院の多数を民主党に奪われ、内政面ではトランプ流の政策が動きにくい。ロシアゲートについてはモラー特別検察官(元FBI長官)による捜査は終了したが、大統領を訴追する証拠がないだけで無罪と断定しているわけではない。

トランプ大統領は国内面では受け身とならざるを得ず、再選を勝ちとるためには外交面での成果が必要だと考えても不思議ではない。現在のアメリカの対外政策は、オバマ大統領の成果の否定と「アメリカ・ファースト」の名の下での短期的成果を求める姿勢が明確となってきた。

まず、グローバルな課題について、トランプは多国間協議を否定し、それぞれ二国間での交渉を主張している。それでは物事は解決に進まない。たとえば環境改善に向けたCO2排出規制に対し、アメリカがいくら多国間協議に抵抗したとしても、現実の危機は迫ってくる。そうなるとやはり多国間でという方向にどこかで必ず戻るはずだ。