沖縄県最大の歓楽街・松山に並ぶ夜の店では、政治の話が飛び交う場面も少なくない。元キャバクラ嬢でフリーライターの上原由佳子氏が、勤務時代に出会った客とのエピソードを紹介する——。
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「カラオケしたい」と言う男性客、選んだ曲は……

「若者が右傾化している」「若者のほとんどが自民党支持者」だとメディアなどでたびたび言われるようになって久しい。特に沖縄県のキャバクラ店などは、建築業のお客や中小企業のお客が少なくないため、自民党支持者も目立つ。

こうした世界は、働く人間がフォーカスされることはあっても、お客のエピソードに焦点が当たることはない。そこで、今回は、お客がどのように右寄りの話や左寄りの話をするのか、潜入ルポ形式で書いてみたいと思う。

ちょうど、5年ほど前のこと。筆者が沖縄県内の店で働いていたときのことだ。料金形態は高級クラブよりも安く、キャバクラよりは高いといったところ。いつもと同じように接客していると30代くらいの男性客から「カラオケしたいからデンモク(リモコン)ちょうだい」と言われた。

デンモクとマイクを渡すと、男性はマイクを持ち立ち上がった。ずいぶんと気合が入っているなと思っていたら、なんと「君が代」を歌い出したのだ。拍手がしにくいテンポな上に、飲みの場で国家を歌う人は初めて見た。あまりにも驚いてポカーンとしてしまう。

もちろん「君が代」を歌うのは個人の自由だ。しかし、夜の店でその選曲はいかがなものだろうか。キャストからは羽振りのいい客としか見られず、“ちょっとお近づきになりたくない人”だと思われていそうである。ちなみに、そのお客は中学校もまともに通っていないと公言する一方で、お金は持っているグループの1人だった。それゆえ沖縄の歴史的背景も知らずに、国家は素晴らしいと思っているのだろう。