「哲学は役に立たない」と言われているのにもかかわらず、書店には哲学の入門書がたくさんある。哲学者の岡本裕一朗氏は「売れている哲学書がすべて専門家によるものだとは限らない。なかには、哲学の概念を誤って伝えているものもある」という——。

※本稿は、岡本裕一朗・深谷信介『ほんとうの「哲学」の話をしよう』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

「哲学」の意味は「知識に対する愛」

【深谷】今日は、レンズをグッと「いま」に引き寄せて、いま哲学と広告で何が起こっているのか、どんな課題に直面しているのかを明らかにしていきたいと思います。双方の課題から、いまという時代をどう見たらいいのかその視点が浮かび上がってくるのではないかと期待しています。

玉川大学文学部名誉教授の岡本裕一朗氏(撮影=中央公論新社写真部)

さて、おそらくこの本(『ほんとうの「哲学」の話をしよう』)を手に取ってくれた読者は、ぼくと同じように哲学に何かを求めているのだと思うのですが、ぼくの感覚としてはいま哲学への注目にともない、ちまたには細分化した哲学の断片があちらこちらに散在していて、専門家ふうの人が書いた書籍はちょこちょこつまみ食いをするには都合がいいのかもしれないのですが、もっと骨太な哲学の根っこや幹に触れてその躍動を自分の力にするにはどうしたらいいのだろうと考えてしまいます。哲学は本来すべての学問の原点という側面があるのですよね。

【岡本】あります。哲学は、何かについての学問というのではなく、すべての学問を含む「知」としてはじまりました。フィロソフィという言葉からしても「知識に対する愛」という意味ですから、学問領域を限定していません。ですから西洋では、学問の最高位である博士はすべてPh.DつまりDoctor of Philosophyということで、みな哲学博士になってしまうのですね。