マーケティングは市場の細分化、ターゲット層の選定、自らのポジショニングの選定という順で行われることが多い。だが、筆者はポジショニングの選定からスタートするケースもあるとし、伊藤園の事例からその可能性を明らかにする。

日本初、商業ベースの緑茶飲料を発売した伊藤園

STPという言葉は、この連載の中でも出てきた言葉だ。市場を分析し消費者層を細分化し(Segmentation)、その中からターゲット層を選び(Targeting)、その層に合うようにみずからのポジションを定める(Positioning)というやり方である。その頭文字をとって、そのままSTPと呼ぶことが多い。ほとんどのマーケターは、定番のようにしてこの手法を使っている。だが、常に〈S〉、つまり細分化ないしは市場分析が最初にくるわけではない。消費者に向けて、どのような切り口で入っていくのかという〈P〉、つまりポジショニングからスタートするケースもある。伊藤園の緑茶飲料への取り組みはそれだ。

緑茶飲料市場のここ10年ほどの成長は目立っている。1990年には、清涼飲料市場全体の0.5%を占めるにすぎなかったが、2001年にはウーロン茶飲料を追い抜き、03年以降はジュースや健康飲料などを含む清涼飲料市場全体の10%近い規模にまで成長した。売上高ベースでは、93年には571億円であったものが、97年に1133億円、「生茶」がブームを引き起こし「第一次緑茶戦争」と呼ばれた00年には2171億円の規模に成長し、さらに04年のサントリーの「伊右衛門」のヒットをきっかけとした「第二次緑茶戦争」を経た05年には4470億円規模へと躍進した。

今日、われわれはコンビニやスーパーでペットボトルに入った緑茶飲料を購入し、それを携帯して仕事の合間や食事の時間に飲む。あるいは食卓には、2リットルのペットボトル入りの緑茶が置かれている。ところが、緑茶飲料が市場に登場した80年代はまったく様相が異なっていた。「缶やペットボトルに入ったお茶を買うのはもったいない」とか、「お茶は、茶葉からいれるのが一番」と思っていた時代であった。そのときに、伊藤園が日本で初めて商業ベースの緑茶飲料として、缶入りの「煎茶」を発売した。85年のことである。その後、89年に「お~いお茶」に商品名を変更した。

その後、「お~いお茶」は成長し、09年1月末現在で累計販売量は150億本(500ミリリットル容器換算)を超え、「伊右衛門」や「生茶」など大手飲料メーカーのブランドがひしめく緑茶飲料市場で40%前後のシェアを保持するに至っている。どうして、そうした成長が可能になったのか。それは、「飲料化比率」というコンセプトを外しては理解できない(吉田満梨「不確定な市場環境に対する2つのアプローチ ─ 株式会社伊藤園 飲料化比率を参照点とした市場創造の事例」、『季刊マーケティングジャーナル』、日本マーケティング協会、第29巻 第3号)。