日本経済の成長力が弱くなった現在、次のリーディング・インダストリーを見つけるのは難しい。一定の条件が整えば、化学産業には、その役割を担う可能性が大いにある、と筆者は説く。

機能性化学製品の世界シェアは自動車より高い

日本の近代化のプロセスでは、その時々のリーディング・インダストリー(主導産業)が、経済発展全体を牽引してきた。それは、明治初期の製糸業に始まり、綿紡績業、化学繊維産業、造船業、鉄鋼業、電気機械産業、自動車産業と受け継がれてきた。新興国の台頭が著しく、日本経済の成長力が鈍化した今日、次のリーディング・インダストリーを見つけ出すことは、簡単ではない。IT産業やコンテンツ産業に期待する向きもあるが、国際競争力や事業規模を考え合わせると、ただちに、それに賛同することはできない。そのようななかで、最近になって、化学産業こそが次の日本のリーディング・インダストリーだとする見方が、徐々に広がりつつある。

たしかに、化学製品の売上高は、自動車や電子機器、電子部品のそれに比べれば小さい。しかし、LCD用偏光板保護フィルム、化合物半導体、カーボンファイバー、リチウム電池用正負極材、シリコンウエハなど機能性化学部材に関しては、日本製品の世界シェアが、自動車・電子機器・電子部品の場合よりはるかに高い。この点に注目すれば、化学産業のリーディング・インダストリー化は、大いにありうることなのである。

一方で、化学産業がリーディング・インダストリーとなるためには、クリアしなければならない課題も多い。

まず、日本の化学メーカーは、事業規模の点で、欧米のトップメーカーに大きく水をあけられている。これは、欧米メーカーと互角ないしそれ以上の売上高をあげている、自動車業界や電機業界の場合とは異なる現象である。化学業界においては、売上高で見て世界第1位のBASF(ドイツ)が700億ドル強であるのに対して、国内第1位の三菱ケミカルHDは200億ドル弱で世界第14位にとどまる(2008年のデータ)。先にあげた日本の歴代のリーディング・インダストリーは、すべてではないにしても多くの場合、一時的ではあれ産業全体の生産高が世界一となるか日本メーカーが世界トップカンパニーとなるかして、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代を築いてきた。化学産業がリーディング・インダストリーとなるためには、事業規模の拡大という課題を達成しなければならない。