イトーヨーカ堂のアイワイネットの取扱店は約100店。北海道から東北、首都圏、愛知、関西圏、広島の一部をカバーし、会員数は38万人に達している。売り上げも好調だ。2008年は130億円、今年は200億円を見込む。全売り上げに占める比率は平均で4~5%。高い店では10%に迫る勢いだ。

すでに黒字化も果たし、順調に推移するアイワイネットの始まりは、例によって、鈴木敏文会長の鶴の一声だった。

「これからは御用聞きの時代だ」

この声を受けて、まず01年に葛西店からスタート。だが、ここから6年間、「下積み」の時代が続いた。05年には大宮店や大宮宮原店での扱いも始まったが、それでも実施店は3店どまり。食品にとどまらず家電製品や自転車を扱うなど 実験を繰り返しながらの細々とした取り組みが07年に大化けした。取締役執行委員・IT事業部長の青木繁忠は言う。

「御用聞きをどう具現化するか、お客様の立場に立って考えてみました。1週間に一度の配達では注文した品を忘れてしまうから、その日のうちに届けてもらいたいし、携帯からも注文できたほうがいい。配達を3時間は待てないが、2時間だったら待てそうだ。普通の店は開店が10時なので、10時から商品を集めて梱包するとなると早くても配達は12時になるだろう。じゃあ、12時から2時間ごとの設定で配送を組み立てていくと1日5便体制になるな。こんなふうに、利便性の高い仕組みを手探りでつくり上げていったんです」

1年間かけて大枠を整えたところで、07年に攻めに転じた。店舗数を一気に80店に増やし、配達地域を大幅に拡大。多い店舗では1日最大300件まで注文を受け付けている。1店あたりの平均注文件数は約90件。1日にたった24件(8件×3便)の注文にしか応えられず貧弱な受注体制だった「下積み時代」と比べると格段の進歩だ。

店舗のバックヤードの一角に設けられた作業場には、随所に創意工夫が見て取れる。アリオ西新井店の作業場は約25坪。壁面に什器が並べられたスペースはまるで小さなコンビニのようだ。

イトーヨーカ堂作業の流れ

 朝9時になるとこの部屋は急に活気づく。午前9時に締め切られた1便(12時~午後2時配達)の注文リストが9時10分に印刷され、このリストをもとに売り場で注文商品がピックアップされていく。注目すべきは野菜なら野菜の、鮮魚なら鮮魚の実店舗の売り場担当者が直接商品を選んでいることだ。

最初からこの方法を採用していたわけではない。当初はネットスーパーの専任スタッフが売り場を回遊し、1人分の注文リストを完成させる形だった。だが、実施してみると売り場は広く、意外に手間と時間がかかり、とても注文件数に追いつかない。効率を考慮しての変更が、結果的にはネットスーパーの不備を補うこととなった。