誰もが疑問を抱かない、株主の議決権行使の現状に筆者は異論を唱える。機関投資家などの事例も交えながら、株を取り巻く権利について考える。

経済学者や法学者はどう考えるか

株主総会の季節になると、株主による議決権の行使は社会正義にかなっているのだろうかという疑問を持ってしまう。

こう考えるのは、一部の機関投資家の議決権行使に疑問を感じることがあるからだ。法律によって株主に議決権が与えられているのだから株主による議決権の行使は正当な権利の行使であり、疑問の余地はないと考える読者も多いだろう。

しかし私は、株主の議決権の正当性に問題が残されていると思っている。とりわけ最近のように機関投資家の所有比率が高まっているときには、議決権行使の正当性という問題はきわめて複雑な問題を生み出していると考えるだ。

そのためにまず、なぜ法律では、株主に議決権が与えられているのかという基本的な問題から考えてみよう。つまり、法的な規定そのものが正義なのか、という問いに対する専門家の答えを聞いてみよう。この問いについては、制度を研究している経済学者や法学者によってすでにいくつかの答えが与えられている。

その中でもっとも説得力があるのは、株主が弱い立場にあるから議決権が与えられ点ている、という答えだ。

多様な利害関係集団は、会社との取引に対する対価を優先して受け取ることができる。これに対して株主の取り分は事前の契約によって決められているわけではない。株主が受け取ることができるのは、残余あるいは剰余としての利益であって、会社が儲からないときは株主の取り分は全くなくなるかもしれない。その意味で株主は弱い立場にある。言い換えれば株主はリスクを負担しているのである。この弱さを補填するものとして議決権が与えられている、という答えだ。

この回答にも疑問の余地はある。たとえば、リスクを負担しているのは株主だけかという疑問だ。不況になると職を失う非正規労働者もリスクを負担しているし、銀行も経営危機のときは金利の減免や返済の猶予に応じるという意味でリスクを負担している。日本では取引先も、支払いの猶予や納入単価の切り下げという形でリスクを負担することがある。管理者や正規従業員もボーナスの削減に甘んじるというリスクを負担している。

また株主は本当にリスクを負担しているのかという点に関しても疑問の余地がある。株主はリスクを負担しているから弱い存在で、それを補うために議決権が与えられている、という論理は非上場会社の株主を思い浮かべるとわかりやすい。このリスク負担という弱さは、日本の非上場会社で経営者を兼ねている大株主には明確に成り立つ。このような株主は、日本では無限責任を負わされており大きなリスクを負担している。

リスク負担という弱点は上場会社の一般株主に成り立つのだろうか。原理的には、上場会社の株主はリスクを負担している。リスクの中でも最も大きいのは倒産である。倒産して株価がゼロになってしまう危険がある。しかし、多くの株主は、そうなる前に売り抜けることができる。もちろん売り抜けようとするときに株価は下がっているはずである。