「発達障害は親の愛情不足が原因」。そんな俗説はいまだによく聞かれる。精神科医の岩波明氏は「昔は公然と親が悪者にされてきた。だがその後の研究で、医学的にはまったく根拠のないものであることがわかっている」という――。

※本稿は、岩波明著、『うつと発達障害』(青春新書)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/FatCamera)

医学的にはまったく根拠のない俗説

今でも「ASD(自閉症スペクトラム障害)は親の養育・愛情不足が原因」という説を述べている自称専門家が存在しているようですが、「自閉症などASDは親のせい」というのは俗説に過ぎません。現在は完全に否定されています。

実は、昔は、親の養育の失敗、愛情の不足などと、親が悪者にされることが、公然と行われてきました。そのような学説に関連する本も、多数出版されました。けれども、その後の研究が進むにつれて、このような考えが医学的にまったく根拠のないものであることがわかってきました。

もちろん、親の養育の失敗や愛情の不足が、患者の経過や幸福感に影響することはあるかもしれません。けれども、そのことが病気の発症の原因ではありません。

ASDは、かつて広汎性発達障害と呼ばれた疾患の総称です。自閉症やアスペルガー症候群が、このカテゴリに含まれています。スペクトラムとは、「連続体」という意味です。ごく軽症の人から重症の人まで、さまざまなレベルの状態の人が分布していることを指しています。

柔軟な対応が苦手でルールがある作業が得意な傾向

ASDの主な症状は2つに分けられます。1つは「コミュニケーション、対人関係の持続的な障害」です。

具体的な内容としては、「相手の心情を、表情や言葉のニュアンスから察することが難しい」ことや「場の雰囲気を読むことができない」ことなどを意味しています。対人関係が不良な結果、自閉的な生活や引きこもりの症状につながることもあります。

もう1つの症状は、「限定され反復的な行動、興味、活動」です。これは、手や指を動かしたり、捻じ曲げたりするなどの機械的、反復的な動作を繰り返すことや、独特のこだわりによって、特定の事物に強い執着を示すことなどを意味しています。

ASDの人はこだわりが強いため、対人関係を含めて、状況に応じた柔軟な対応を苦手としています。日々の生活において、自分なりのマイルールがあり、その決まりをしっかり守ろうとすることも特徴です。

一方、彼らは、数字の記憶やカレンダー計算、パズルなど、一定のルールがある作業は得意とする傾向にあります。