語学学習に取り組むことは、その言語を習得すること以外に、どんなメリットがあるか。統計家の西内啓氏は「母国語ではない言語を学ぶと、母国語も上達したり、思考力が上がるというデータがある」という。イーオンの三宅義和社長が詳しい話を聞いた――。(第3回)
統計家の西内啓氏(左)とイーオン社長の三宅義和氏(右)

AIでは代替できない温泉宿の女将の価値

【三宅義和氏(イーオン社長)】AIがもたらすコミュニケーションやビジネスへの影響に関してどのように考えていらっしゃいますか?

【西内啓(データビークルCPO)】経営者の方からAIの事業化について相談を受ける機会が増えています。そうしたアドバイスをするときに、事業がうまくいくか否かの見極めでよく使う視点の1つが、人間同士のコミュニケーションが持つ「感情的な価値」です。

例えば温泉宿の女将が接客時に使う会話をすべてAIで再現することは技術的に難しくはありません。「渋滞は大丈夫でしたか?」「お仕事でこちらにいらっしゃったんですか?」などそれほどパターンがあるわけではありません。

一見するとたわいもない会話なのですが、意味がないわけではなく、女将の会話の価値は「この人は自分のことを気にかけてくれている」という感情的な側面にあるのですね。

【三宅】日本人が得意な「おもてなし精神」ですね。

【西内】そうです。だから無人のフロントに行ってAIが搭載されたロボットから「運転お疲れさまでした」と言われても、もてなされた感覚がまったくありません。もしくはクレームのために電話をかけたコールセンターがAI化されていたら、いくら「申し訳ございません」とコンピューターに謝罪されても気持ちは収まらないですよね。

【三宅】むしろ不快になりそうですね(笑)。

英語学習で人間の先生が果たすべきはコーチの役割

【西内】ですよね。だからやはりAIが強いのはあくまでも機能的な領域で、感情的な価値までAI化してしまうと、それは少し違う気がしますよね。

例えば御社の場合だと、生徒の方々はリアルな先生に習っているわけですから「今日はサボりたい気分だけど、すっぽかしたら先生に申し訳ないよな」といった感情が湧くと思うのです。でも先生がAIだとそういう感情は湧きづらいですよね。

AI教材にはそもそも決まった授業時間がないという話もありますが、もしそうだとしても、「いまの先生はすごく熱心に教えてくれるから自分も頑張ろう」「いまは我慢のしどきですって先生が言っていたから、それを信じよう」といったような感情的な結びつきは、AIが相手だと生まれないでしょう。

【三宅】使い分けが大事ということですね。

【西内】はい。だから英語学習にしても、ユーザーの特性を見抜いてくれるAI教材があれば時間効率が飛躍的に上がるので、使わないのはもったいないです。ただ、それだけで学習成果が上がるかといえばそうでもない。英語学習のアプリは山ほどいろいろありますけど、ダウンロードした人が実際にどこまで続けられているのか、という話になりますので。

やはりメンタリングをしてくれたり、モチベーションを上げてくれたり、目標設定を手伝ってくれるようなコーチ役は必要で、それは人間がやった方がよいでしょう。効率化する部分と人とのつながりの部分をどうバランスよく設計するかというのが重要な視点ですね。