日本では2人に1人ががんにかかる。だが、その病態には謎が多い。なぜがんはできるのか、なぜ高齢者ほど発症しやすいのか。京都新聞の広瀬一隆記者が、京都大学医学研究科の小川誠司教授に聞いた――。

※本稿は、広瀬一隆『京都大とノーベル賞 本庶佑と伝説の研究室』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

「がんとは何か」に答えられるか

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Pornpak Khunatorn)

現代日本では、2人に1人ががんにかかるといわれる。がんで亡くなった友達や親族のいる人も多いことだろう。悪性新生物、悪性腫瘍……がんにはいろいろな別名がある。

「悪性」という言葉からは、命にかかわる病気であるという印象は伝わってくるが、がんとはなにか、とあらためて問われると答えに詰まる人は多いのではないだろうか。

自分のことを思い返しても、医学部の3年生だったころに授業で「悪性腫瘍」という言葉を聞いて、それががんと同じ意味なのかわからなかった記憶がある。これは勉強をさぼってばかりいた私だけにしかあてはまらない経験かもしれないが……。

ともかく、がんという病気が理解しづらいのは確かだ。脳や皮膚、消化管に骨と、体中のあらゆるところにできる。原因も感染症から食習慣、喫煙とさまざまある。全体像をつかむためにはどうすればいいのだろうか。

異常に増殖してできた細胞の塊が「腫瘍」

まずは「悪性腫瘍」という言葉を手がかりに考えていきたい。そもそも「腫瘍」とはなんだろう?

私たちの細胞は増殖する機能をもっている。たとえば、なんらかの原因できた傷口は、周辺の細胞が増殖することによってふさがれる。正常な場合は、増殖因子の作用を受けたときにだけ増殖するため、元通りになったらそれ以上は増えない。

しかし増殖因子の作用を受けなくても、異常に増殖する場合がある。こうしてできる細胞の塊が腫瘍だ。

腫瘍ができたとしても、すべてががんというわけではない。腫瘍のなかには「良性」と「悪性」がある。「良性」の場合は、こぶのような形状をつくっても特定の場所にとどまっていてほかの組織に広がっていくことはない。たとえば大腸には良性のポリープがよくできる。良性腫瘍はがんではない(ただ、悪性化することもあるので注意は必要だ)。

一方の悪性の腫瘍は周囲の組織に染みこむように増殖していく上、血管やリンパ管を通ってほかの臓器に転移する。がんはからだのあちらこちらで増殖して、臓器に障害を引き起こし、さらには悪液質と呼ばれる症状をもたらす。悪液質のメカニズムはまだはっきりしていないが、栄養不良となって体重減少などが起こる。

悪性腫瘍というがん組織によってからだの健康な組織が侵されることで、場合によっては死に至るのだ。