同族経営ではたびたび親族同士の「骨肉の争い」が取り沙汰される。なぜそうした問題が起きるのか。自身も老舗企業の四代目である星野リゾートの星野佳路代表は「原因はそれぞれ異なると考えがちだが、実は経営学ではありふれた問題として理論化されている。老舗の経営者たちは、その体系化された知識を身に付けるべきだ」と訴える――。

※本稿は、ジャスティン・クレイグ他著『ビジネススクールで教えているファミリービジネス経営論』(プレジデント社、6月13日発売)の解説を再編集したものです。

日本企業の9割以上が「手探り」で経営している

数年前に『ビジネススクールで教えているファミリービジネス経営論』の著者、ジャスティン・クレイグ教授が来日された際、ファミリービジネスに関する特別授業をされました。縁あってわたしも参加させていただきましたが、そのとき実感したのは、ファミリービジネスの経営者が悩んでいることの多くは、すでに体系化された理論やモデルを使うことによって効率的に解決できるということです。

星野リゾート 代表 星野佳路氏(撮影=大槻純一)

わたし自身、1914年に創業したファミリー企業の四代目ですが、かねてよりファミリービジネスには固有の経営理論が必要であると考えていました。なぜならそれが「埋もれた資源」の活用に直結するからです。ファミリービジネスというと一般的にイメージするのが町工場や飲食店、商店、旅館、酒蔵などですが、病院、学校、税理士事務所などもファミリー企業が意外に多い。そして、農業や漁業も家業という形態が主流です。

実際、日本で法人登録している企業の9割以上はファミリー企業です。日本の経済産業において中心的役割を果たしているにもかかわらず、そのマネジメントは体系化されているとは言いがたく、それぞれが手探りでやっているようなところがあります。まだまだやるべきこと、できることが多く残っている。つまり、体系化した理論で学ぶことによる伸びしろは大きいわけです。

今後日本は人口減少によって経済成長が鈍化していくことが予想されているなかで、この伸びしろは未開発の貴重な資源といってもいいでしょう。しかもファミリー企業の多くは地方に存在していますから、その経営者や後継者がプロフェッショナルな経営を身に付けることは地方経済の中長期的な活性化にもつながるはずです。また、こうした理論をファミリー企業の家族がともに勉強できる場があれば、後継者不足による廃業や、いわゆる「お家騒動」による経営危機を未然に防げる可能性が高まると思います。

クレイグ教授はオーストラリアでホテルを経営するファミリー企業の一員として育ち、家業を経験したのちに研究者に転じたという異色の経歴の持ち主です。本書がファミリービジネスの経営者の目から語るという独特のスタイルで書かれているのも、彼自身の体験を含め、最新の研究成果を「最も必要とする人たち」に確実に届けたいという思いからでしょう。