原材料費や人件費の高騰を理由に、さまざまな商品の値上げが続いている。価格が上がると購入を控えるのが普通だが、東京大学経済学部の阿部誠教授は「消費者がつい受け入れてしまう値上げのやり方が存在する」という。どんなからくりなのか――。

※本稿は、阿部誠『東大教授が教えるヤバいマーケティング』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

いくらなら高いと感じるか?

まずは、消費者が価格についてどのように感じているのかを見ていきましょう。以下のような状況を考えてみてください。

「夏の暑い日、ビーチで寝ころんでいたところ、友達がビールを買ってこようと提案しました。この近辺でビールを買えるところはおしゃれなリゾートホテルのバーしかなかった場合、いくらまでなら払いますか? 逆に、ビールを買えるところが古びた雑貨店しかなかった場合、いくらまでなら払いますか?」

おそらく多くの人は、ホテルのバーでしか買えないときに払ってもいいと思う金額のほうが、雑貨店でしか買えないときに払ってもいいと思う金額よりも高い額を答えるでしょう。これは私たちがそれぞれの店舗で予想するビールの価格が異なるからです。

価格の高低を判断するため、消費者が頭の中に抱いている基準価格のことを「内的参照価格」と呼びます。これは、その人の過去の経験や記憶など、多様な知識から形成されています。

「文脈」や「知識」で“適切な価格”は変わる

内的参照価格に影響を与える要因は3つあります。まずは「外的参照価格」。たとえば店内やパッケージに提示されたメーカー希望小売価格、参考価格、通常価格などのことです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/sefa ozel)

次に「文脈」。さきほど出した例でいうと、リゾートホテルのバーで買うか、古びた雑貨店で買うかは、これに該当します。

最後は「知識」。たとえばヴィンテージもののジーンズのなかには数十万円するものもあります。マニアにとってはそれぐらいの値段がするのは当然のことでも、そうでない人にしてみれば高すぎますよね。まさに知識が内的参照価格に影響を与えている例です。

ふつう、価格が上がると満足度が下がります。経済学では満足度のことを「効用」と呼び、通常は価格に対して効用が線形に下がる効用関数を仮定します。しかし実際には、消費者は価格に対して非線形に反応することが知られており、心理学の理論はこれを裏付けています。