事業本部長とのせめぎ合い、高度化する事業内容、経営計画の形骸化……。各事業部への権限委譲によって経営企画部の悩みとストレスは増えるばかりだ。いま「会社の中枢部門」では、何が起きているのか。

仕事の高度化・細分化、各本部長の反発
……経営企画部の重圧

大企業トップの意思決定を助けるのが本社スタッフ部門の花形、経営企画部だ。責任は重く、やりがいも大きい。しかしその分、過重なストレスにさらされている。

経営企画部の部課長は、一般に次のような悩みを抱えている。(1)経営計画の方向性や内容について事業本部長から反発を受ける。(2)事業が高度化・細分化しているため理解不足が生じ、現場との議論がかみ合わない。(3)事業本部と数値目標を調整しきれず、経営計画が形骸化してしまう。

以下、順に問題点と解決策を示していきたい。

まずは、事業本部長との関係だ。

経営企画部は、社長が示す大まかな経営方針や長期ビジョンを拠り所に、具体的な中期経営計画を作成することが多い。経営方針はあくまでも抽象的・概念的なものだ。これを血肉化し、3年後までにどのような目標をどのような工程によって各事業が実現するかというガイドラインを示すのだ。

しかし、近年はこれが難作業になっている。

たとえば大手メーカーの多くは事業本部制やカンパニー制を採用し現場への権限委譲を進めている。会社の一部にすぎないとはいうものの、巨大メーカーなら一つの事業本部が売上高1兆円、従業員1万人を超えることも珍しくない。それだけの事業を統括する事業本部長は、多くの場合、役付役員を兼務する50代、60代の実力者だ。

彼らは優良企業の社長に匹敵する権限と威厳と経験を備えている。エリート集団の経営企画部といっても、30代、40代の部課長クラスでは議論をするにしても太刀打ちできない場面が出てくるのだ。

いちばん困るのは、全社を見渡したポートフォリオ的観点から、ある事業の縮小・撤退を通告するときである。事業本部長はおおむねその事業に思い入れがあるし、将来性について深い洞察を持っている。

「この事業については私のほうがよくわかっている。いまのところお荷物のように見えるかもしれないが、まだまだこれだけの可能性がある。お客さんのニーズも衰えていない。したがって今後も前回の中期計画なみの投資が必要だ。そもそも君らのような“内務官僚”は数字だけで物事を判断するが、この事業は何万人もの従業員が関わっているんだぞ。今後彼らをどうやって食わせていけばいいのか」

こんなふうに押し返されたら、相手を説得するのは至難である。しかもこれは珍しいケースではない。経営企画部の部課長には、この種のせめぎ合いを乗り切るタフさが必要なのだ。

ところが実際には、深刻なせめぎ合いを回避しようと、仕組み自体を変えてしまった会社もある。経営計画づくりを経営企画部が主導するのではなく、各事業本部にそれぞれの計画を立てさせ、それをただ足し算して全社の中期経営計画とするのである。

もちろんこれは本来の姿から大きく逸脱している。経営企画部は単に事業本部から上がってきた情報を取りまとめるだけが仕事ではない。全社的な視点から各事業の将来図を描くとか、事業間のシナジーを生み出すために部門横断的な検討を指示する、といったところへ踏み込まなくてはならない。せめぎ合いを嫌い、議論を避けてしまっては本末転倒なのだ。

では、どうすればいいか。

まずは事業本部長の思いや悩みを事前に十分汲み取っておくことだ。そのうえで、全社の経営視点という立ち位置は絶対に確保しつつ、定量数値をもとに事業本部長と対等な議論を展開するのである。