「日本全国に電信柱は何本あるか」

「世界中で1日に食べられるピザは何枚か」――。このように一見掴みどころがないように思える数量について、何らかの推定ロジックによって短時間で概算を求める方法がフェルミ推定である。

最近は数学パズルのような取り上げられ方もしているが、コンサルティング業界では昔から採用面接などの場で用いられてきた。容易には算出が難しいフェルミ推定の課題では、知識ではなく純粋に「考える力」を試すことができる。

しかもフェルミ推定のプロセスでは、仮説思考(結論から考える)、フレームワーク思考(全体から考える)、抽象化思考(単純に考える)などの思考術が要求される。言ってみればフェルミ推定は「問題解決の縮図」であり、だからこそ問題解決力を測ったり、それを鍛錬したりする強力なツールとして活用されているのだ。

実際のビジネスの現場で、フェルミ推定はどのように使われているのだろうか。フェルミ推定の基本精神のなかで特に実践的なのは、時間を区切って何が何でも答えを出すという「タイムボックス」の考え方だろう。

社内の会議やブレーンストーミングで持ち上がったアイデアや企画に関して、「結局、それでどれだけコストダウンできるのか」「どのくらいの投資対効果があるのか」といった裏付けがほしいときに、フェルミ推定を使って概算すれば、その場できわめて短時間のうちに大まかな“当たり”を付けられる。

たとえばコストダウン対策や環境負荷軽減策で「昼休み消灯運動」のアイデアが出てきたとしよう。この手のキャンペーンは社内のコスト意識や環境意識を高めるのが目的で効果は二の次であることも多いが、会議の席では「昼休みの1時間に社内の蛍光灯を消してどれほどの効果があるのか」という声も聞こえてくる。

総務に全社の蛍光灯の数を確認して、ワット数から電気代を算出することもできる。しかし、そんな手間隙をかけているようでは議論の熱も冷めてしまう。さりとて「次の会議までの宿題」にするのは悠長すぎる。