世界最先端の技術が集まる米国シリコンバレー。ここで存在感を示す日本の試作品メーカーがある。京都府宇治市に本社を構えるHILLTOPだ。同社は多品種少量生産のアルミ切削加工を手がける。強みは、圧倒的なスピード生産。発注から5日目の納品をうたい文句に、NASAやUBERなど名だたる取引先を獲得している。

日本本社も「試作専業のトップ企業」として広く知られ、月間に生産する試作品は3000種以上。火星探査機、医療機器といった精密機械からアーティストのマイクスタンドに至るまで、多様な加工を手がける。その興味深い経営スタイルから、日本中から企業訪問が後をたたない。

1961年の創業時には、自動車メーカーの孫請け工場だった同社が、どのように変貌を遂げたのか。早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授が解説する。

HILLTOP 米国法人社長 山本勇輝氏

「これは正しい人間の働き方なのか」

▼第二創業

美しい曲線を描く壁に、ピンクのカーペット。騒音もなく、油まみれの作業着姿の工員もいない――。HILLTOPの本社には、工場に付きものの3Kのイメージはありません。清潔でシャープ、開放的な空間では若いプログラマーたちが楽しそうにCADに向き合っています。製造ラインの機械で作業する人の姿はごくまばらです。

このおよそ「工場らしくない工場」では、昼間にプログラマーが組んだデータをもとに、夜は無人状態で機械が自動加工を進行。人は翌朝、仕上がった製品を検品するだけ、というオンラインシステムが導入されています。

もとは小さな鉄工所だったという同社がここまで変貌を遂げた背景には、二代目、三代目と父子が巻き起こしたイノベーション、すなわち「第二創業」がありました。本連載では「第二創業」をテーマに中小企業の成功事例を取り上げていますが、HILLTOPは父から子へと変革のビジョンが受け継がれている特異な例といえます。経営学の3つのキーワードから解説しましょう。

第1のキーワードは、「内発的動機」です。人がお金や昇進のためではなく、本心から「面白い、ワクワクする」と思える動機付けのことです。HILLTOPは社員の内発的動機を高めることを、根本の哲学として常に考えています。

同社で初めて革新が起きたのは今から30年以上前。創業者の次男、山本昌作代表取締役副社長が事業内容を刷新したことから始まります。当時の山本精工(現HILLTOP)は、大手自動車メーカーの孫請け部品工場。冷暖房設備もない、昔ながらの鉄工所でした。昌作氏の長男で、入社12年目の山本勇輝経営戦略部長は、この頃の様子を次のように語ります。