昼休みの電話番は労働か休憩か

2019年4月、それまで事実上、青天井だった残業時間に罰則付きの上限規制を設けた働き方改革関連法が施行された。罰則を受けるのは使用者側。従業員に長時間残業させることは、今後、企業にとって大きなリスクになる。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/aluxum)

気になるのは、残業になる範囲だ。たとえば帰りの電車の中で仕事のメールを打つことも残業になるなら、知らない間に上限を超えるおそれもある。はたして、残業としてカウントされるのはどこまでだろうか。

労働時間の基本を押さえておこう。判例で労働時間は「使用者の指揮命令下に置かれた時間」と定義されている。では、どこまでが指揮命令下なのか。労務問題に詳しい千葉博弁護士は、「労働からの解放が保障されているか否かで判断するといい」と解説する。

「昼休みに社員に電話番を頼んだとします。結果的に電話がかかってこなくても、社員が銀行にいきたくてもいけなくなるなど、労働から解放されていたとはいえず、労働時間にカウントされます」

義務付けられていて、違反するとマイナスに評価されるかどうかも重要だ。

「始業9時で、10分前から朝礼をやる会社があるとします。表向き参加は自由といっても、朝礼に出ないと査定に響くなら、労働時間と認定される可能性が高い」

指示がなくても、残業になる可能性

以上を踏まえると、帰りの電車で仕事のメールを打つ時間は、どうとらえられるか。

会社から「業務時間外であってもすぐに返信しろ」といった指示があれば、残業と判断される可能性が高い。一方、特に指示はなく、本人が「時間を有効に使おう」「ここで返信すれば明日の仕事が楽になる」と考えてメールを打つ場合は任意の行動で、残業にあたらないと考えられる。ただし、指示がなくても次のような状況なら注意が必要だ。

「メールをすぐ返信しないと人事の評価が下がるような場合、会社が事実上、義務づけていたと考えられます。また、仕事量が膨大で、通勤中にメールを処理しないと片づかない状況が慢性化していたら、会社が黙示的にメール処理を命じていたと認定される可能性もあります」

企業としてはグレーな部分をできるだけなくして、残業上限規制に違反するリスクを回避したいところだ。そのためには業務をスリム化し、終業後に社員がメールを打たなくていい環境を整えることが大前提。そのうえで、終業後に仕事のメールをしないように明示的に指導すべきだ。

「リスクを考えるなら、業務命令としてメール禁止を打ち出したほうが効果的という考え方もあります。ただ、業務命令で禁止すると、緊急事態に対応できずに業務に支障が出るおそれもあります。現実的には、普段から指導を続けて、緊急対応でメールしたときは残業時間としてカウントするというやり方が穏当ではないでしょうか」

(答えていただいた人=弁護士 千葉 博 図版作成=大橋昭一 写真=iStock.com)
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