航空券に介護割引料金が設定される時代である。「遠距離介護」がそれだけ身近な存在となったことの証しなのだが、その大変さは想像をはるかに超えている。介護保険導入から10年が経過し、全国各地、どこへ行っても同様の介護サービスを受けることができる。しかし、離れて暮らす家族にとって、その状況に全幅の信頼を寄せることはできないのである。

気休めかもしれないが、遠距離介護を成功させられるかどうかは、家族が不在の期間中、その状況を詳しく伝えてくれる情報網を持てるかどうかにかかっているといっても過言ではない。具体的には、信頼できるケアマネジャーが、報告を逐一してくれること。そうした配慮のできる介護事業者を選ぶことにつきる。ところが、現実はその事業者やケアマネジャーに出会うことが最も難しいのである。

考えられる解決策としては、比較的大手の事業者で、全国ネットのサービス網を持っているところを選ぶ方法が考えられる。事業規模が大きければ、それだけ事例をたくさん持っているので、類似したケースの情報がストックされている可能性が高いからだ。近くにある同じ事業者の経験値を詳しく聞いて、今できる最良のケアの体制をつくることは可能かもしれない。

とはいってもやはり気休めにすぎない。結果的に、遠距離介護を成功させるためには家族全員の協力なくしてありえないのである。遠距離介護といっても現実的には、子ども夫婦が交替で故郷に足を運び、毎月、1週間から10日間くらいはそばにいて介護することが必要だ。その間に、介護サービス事業者との関係を密にして、ケアマネジャーの全面的な支援が受けられる環境づくりにつとめる。

毎月のように通ってくる肉親の存在が見えるだけで、介護事業者の対応は確実に変わるだろう。そして、残された家族は家事を分担して受け持つことになるのだが、その期間がどれくらい続くのか全く予想できない。介護が原因で、結果的に家族崩壊に至ったケースも少なくない。

そこで、遠距離介護を乗り切った人たちの体験談を集めてみると、「介護を始める前に、十分に家族で話し合った」というコメントが圧倒的に多かった。

家族の中で誰が介護の中心になるのか。家事は誰が受け持つのか。兄弟がいれば役割分担は可能なのか。かかる費用についても負担額を決める必要がある。漠然とみんなで協力しましょう、というような話し合いでは絶対にうまくいかない。責任の所在を明確にして、そしてお互いが納得して遠距離介護を始める。それができないのであれば、潔く施設の入居を選択すべきだ。介護のために家族の誰かが犠牲になる時代ではないことだけは確かである。

※すべて雑誌掲載当時

(永井 浩=撮影)
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