なぜ世の中には、男と女がいるのだろうか。静岡大学の稲垣栄洋教授は「生物がオスとメスにわかれている理由は、異業種交流会にたとえるとわかりやすい。業種ごとに違う色のリボンをつけていたほうが、交流が効率的に進むのと同じだ」だという――。

※本稿は、稲垣栄洋『敗者の生命史38億年』(PHPエディターズ・グループ)の一部を再編集したものです。

「なぜ、男と女がいるの?」と子供に聞かれたらどう答えるか

どうして世の中には、男と女がいるのだろうか。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/adyaillyustrator)

男と女がいるがために、私たちは相当のエネルギーと時間を費やしている。子どもの頃から異性を意識して、男子はカッコつけてみたり、女子はかわいくおしゃれをする。思春期の頃は、好きな人のことを思って、眠れぬ夜を過ごしたり、何度も何度も書き直してラブレターを書いたりする。バレンタインデーやホワイトデーともなれば、お金も必要だ。

恋をすれば、勉強が手につかなくなったり、部活に集中できなかったりする。大好きなアイドルのテレビにくぎ付けになったり、コンサートに出掛けたり、CDや写真集にお金を使う。

大人になれば男はデートも奮発しなければならないし、女はおしゃれにお金が掛かる。それなのに失恋すれば、何日も落ち込まなければならない。それもこれも、男と女という存在があるからなのだ。

男と女というのは、本当にエネルギーと時間の必要な無駄なシステムである。しかし、人間だけではなく、動物にも鳥にも魚にもオスとメスとがある。虫にさえもオスとメスとがある。植物にだって、雄しべと雌しべがある。どうして、生物には雌雄という性があるのだろう。

専門家は答えに窮する中、子供が納得した「名解答」とは

子どもたちの素朴な質問に、専門家がわかりやすく答えるラジオの電話相談室では、ときどきドキッとするような質問が寄せられる。あるとき、小さな子どもから、こんな質問があった。

「どうして、男の子と女の子がいるの?」

世の中には、男と女がいる。大人にとっては当たり前のようにも思えるが、よくよく考えてみれば、別に生物にオスとメスがいなければならないというものでもない。オスとメスとがいるというのは、じつに不思議なことなのである。幼い子どもたちの「なぜ?」や「どうして?」は他愛もないものに聞こえるが、ときに本質を突く。

ラジオの電話相談室では、科学の質問に対する専門家の先生がわかりやすい説明が魅力だが、ときに専門家の先生が子どもたちの素朴な質問の前にやり込められてしまうのも面白い。

専門家の先生はタジタジだ。「○○くんは、X染色体とY染色体ってわかるかな」と説明していたが、幼い子どもにそんなことがわかるはずもない。子どもがチンプンカンプンな様子が伝わってくる。

何となく気まずい雰囲気が続いたとき、司会のお姉さんがたまらずこう語りかけた。

「○○くんは、男の子だけで遊ぶのと、男の子と女の子とみんなで遊ぶのは、どちらが楽しいかな?」
「みんなで遊ぶ方が楽しい……」
「そうだね、だからきっと男の子と女の子がいるんだね」

「うん」と男の子ははじけるような元気な声で返事をして、電話を切った。私はラジオのお姉さんの回答に心から感心した。

「男の子と女の子とがいると楽しい」。これこそが、生物の進化がオスとメスとをうみだした理由なのである。