ビジネスの現場では「ロジカルシンキング」を重要視する風潮が強い。だがコンサルタントとしてその技術を徹底的に磨いてきた並木裕太氏は「ロジックは道具でしかない。それだけでは新しい価値を生むにはまるで使えない」という――。
フィールドマネージメント代表の並木裕太氏

ロジックの落とし穴

相手を説得する、企画を通す、事業戦略を立てる……コンサルタントをはじめとした多くの職種で「ロジック」を求められるシーンは多い。提案や判断の根拠をロジカルに伝えられると「デキる人」と評価される向きさえある。

そんな風潮に対し、「ロジカルシンキングを信じすぎるのは危険だ」とコンサルティングファーム・フィールドマネージメント代表の並木裕太はいう。JAL、ソニー、楽天など大企業のコンサルタントを務める傍ら、Jリーグの理事でもある並木はサッカーの“芝生”を例にその理由を話す。

「いま、新たなサッカースタジアムの建設にあたって、人工芝にすべきか、天然芝にすべきかという議論があります。僕が“人工芝派”だとしたらその根拠を言えますが、もし“天然芝派”になれといわれたら、今度はその根拠を並べることもできます。対立する概念があったとして、ロジックはそのどちらの正しさも証明できてしまうんですよ。『You can pretty much prove anything(どんなことだって大概ロジックで証明できる)』と、マッキンゼー時代の重鎮にいわれたことを思い出します」

その仕事に情熱は持てるか

たとえば人工芝派の理屈としては、「人工芝は天然芝にくらべてケガをしやすいといわれています。でも2015年にカナダで開催された女子W杯ではすべての試合会場で人工芝が使われていて、ケガの発生率はたしかまったく変わらなかった。それにサッカー先進国であるヨーロッパのクラブチーム、とくに北のほうは毎日人工芝で練習しています。だから人工芝にした方がいい」。

一方、天然芝派の理屈にしても「2018年のロシアW杯で使われていたから、ふだんから慣れておいた方がいいです。ヨーロッパのサッカークラブの下部組織では人工芝を使っていますが、それに慣れてしまうと天然芝の上で本番の試合をすると勝率が悪くなることが過去のデータを見るとわかります。だから天然芝にした方がいい」とつくれてしまうという。

「ロジックは人を説得する道具でしかない。仕事で成果をあげる、新しい価値を生むにはまるで役に立ちません」

ビジネスパーソンにとってのロジカルシンキングは、サッカー選手にとっての「足が速いこと」くらいの位置づけ。分かりやすく伝えるためには有利かもしれないが、必要条件ではないという。

「コンサル業界を見わたすと、チャーミングな人はもちろんいるんだけど、ロジカルシンキングから抜け出せない“ロジカルバカ”が完成しちゃうこともあるんですよ。人の気持ちはロジックでは動かないのに……」

人を惹きつけて動かす、プロジェクトを完遂するには、結局のところ、強い情熱があるかどうかだという。だからこそ「自分が何を好きか。なぜ楽しいか。どうしてそれに向かって頑張るのか。その思いの強さが大事です」と話す。