日本のメディアはワンパターンな記事が好きだ。「有機農業は善、農薬は悪」「巨大多国籍企業は悪、零細中小は善」「経済成長よりは環境保護」「モノよりは心」……。だがそれは現実を無視している。「食生活ジャーナリストの会」代表の小島正美氏は「このままでは日本は世界から取り残される」と説く――。

※本稿は小島正美『メディア・バイアスの正体を明かす』(エネルギーフォーラム新書)の一部を抜粋・再編集したものです。

メディアでは「巨大多国籍企業は悪、零細な農家は善」という単純な図式が支配的だが――。(写真はイメージです/写真=PIXTA)

民間企業が種子を提供して何が悪いのか

記者はどちらかといえば、ものごとを単純にとらえる傾向がある。最初から「善」と「悪」が決まっていて、「食品添加物は悪、無添加は善」「有機農業は善、農薬を使う農業は悪」「原子力発電は悪、太陽光や風力など再生可能エネルギーは善」「巨大多国籍企業は悪、零細な農家は善」といった具合である。

その結果、記者の書く記事はワンパターンになりやすい。「主要農作物種子法の廃止」に関する記事も、そのよい例である。

主要農作物種子法(いわゆる種子法)は1952年、戦後の食糧増産という国家的な要請を背景に制定された。主な狙いは国や都道府県が主導して、米、麦、大豆の優良な種子を研究・開発し、普及させることだった。その法律が2018年4月1日に廃止された。

その背景には、コメの需要が一般家庭から、外食や中食の用途にシフトしてきた事情がある。単純にいえば、国や都道府県は家庭でおいしく食べられるコメの品種を開発し、それ相当の成果を収めてきたが、これからは外食や中食にふさわしいイネの品種開発が必要であり、いま以上に民間企業の参入を促して、時代に合った多収のイネの品種を生み出そうという発想である。

この法律の廃止に対して、メディアはワンパターンの反対論を展開した。その最たるものが「日本の食が狙われる 種子法の廃止と安倍政権の規制改革」との見出しで掲載された記事(2018年5月9日毎日新聞夕刊)だ。登場するのは、山田正彦・元農水大臣と、遺伝子組み換え作物を危険視する発言を繰り返す学者、伝統農業を守って自家採種の重要性を訴える民間人、というお決まりのパターンだ。