人間関係を保とうとして自分を曲げる人がいる。総合格闘家の青木真也氏は「自分自身が自由で幸せであるためには、『大嫌い』と常日頃から意見を表明したほうがいい」という。その理由とは――。

※本稿は、青木真也『ストロング本能』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

総合格闘家・青木真也

嫌われるのは仕方がない前提で考える

社会生活を送っていればストレスと無縁ではいられません。過労、環境の変化、健康面の不安など、ストレスの要因はさまざまですが、代表的なものは人間関係と言えるでしょう。人間関係が壊れて対立すればそのこと自体がストレスになるし、人間関係を良好に保とうとして自分を曲げてもストレスになります。

僕は「無理に仲良くなろうとしない」ことが、人間関係のわずらわしさから解放される秘訣だと考えます。人間関係なんて、そもそもうまくいくものではありません。「うまくいかない」ことを気にしない精神が大切です。

ほとんどの人は「バランスよく付き合おう」「よく思われたいから、こうしよう」と考えて行動します。しかし、残念ながらこれでは良好な人間関係は築けません。相手に合わせることが優先され、肝心の自分自身が本来の自分ではないからです。傍若無人な振る舞いは論外ですが、「嫌われても仕方がない」と思って相手と接するようにしましょう。それで好かれなかったとしても、そもそも「合わないのだから仕方がない」わけです。

いまはSNSがあるので、「自分はこういう考えだ」と発信しておくのもいいでしょう。「俺はこういうことはしない」「こういう仕事はしません」などと、先に表明しておいたほうが得策かもしれません。

着地点を「仲良くしようぜ」にしない

人見知りであっても、人とうまくやれなくても、お互いに仕事でメリットがあれば、そのときだけでも仲良くなれます。だから、最低限のコミュニケーションができればそれで大丈夫、というのが僕の意見です。「あいさつをする」「ちゃんと返事をする・返信する」「時間通りに行く」「受けた仕事を一生懸命やる」――それだけできればいいと思います。

僕も格闘技の会場に行くと、お世話になった方々のところには必ず自分からあいさつに行きます。礼儀を忘れなければ大丈夫です。人間関係が壊れることはありません。

仕事をもらうために仲良くなる必要はないし、根っからの友達から仕事をもらえたことなんてほぼありません。仕事をして結果的に仲良くなることはありますが、無理に仲良くなろうとする必要はないのです。そこを履き違えている人が多いように思います。そもそも、仲良くなったら仕事をくれるような関係性はいずれ破綻します。

ビジネスで大事なのは、好き嫌いよりも仕事の質です。好き嫌いで仕事の価値も決めるのもおかしい。100万円の仕事を「こいつのことが好きだから」と300万円で発注しているところがあったら、仕事のレベルを知りたいものです。

僕のことが嫌いでも、それでいい仕事ができれば最高です。ビジネスで力を合わせるときは、目的を「いい商品やサービス」に置かなくてはいけません。価値あるものを創造することが大切なので、着地点を「仲良くしようぜ」にすると、いろいろおかしくなります。

結果論でしかないことを目的にしてしまっているから、おかしくなっていくのです。人間関係は、がんばってつくるようなものではありません。たくさんの仲間がいなくても、場面ごとに力を合わせることのできる人は現れます。どんなに人がいなくなっても、ゼロにはならない。一生懸命やっていれば、助けてくれる人はいるものです。