医師の言うことがどうも腑に落ちない――。そう感じたことのある人は多いはず。その理由は、医師が高度に専門的な知識を持っているからだけではない。医師にはそう言わざるをえない事情があるのだ。さらに、医師の世界は、私たち一般人がなかなか知りえない業界用語や隠語も盛りだくさんなのだ。医師の決まり文句の意味をこれから紹介しよう。
▼問診編
いきなり下される「断定口調」

「はいはい、風邪ですね」

こう言ってあっという間に診療を終える医師に対して、適当にあしらわれた気がして怒る方がいます。特に高齢の患者さんは、じっくり診察して話を聞いてほしがる傾向がありますね。ただ、すべての患者さんのお話を無制限にお聞きしていたら、外来業務は麻痺し、病院は大赤字になるでしょう。国民健康保険のおかげで、患者さんの負担は少なくて済みますが、その裏返しとして、ある程度の数を捌かないと経営が立ち行かないのです。

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よく「3分診療」などと揶揄されますが、それを望んでいる患者さんがいるのも事実です。忙しい仕事の合間を縫って来院した人なら、とにかく短時間で済ませてほしいと思うでしょう。「手際よくサッと処方箋を出してくれて助かる」という人もいます。要は「はいはい、風邪ですね」という同じセリフでも、患者さんのニーズによって受け止め方は正反対なんです。さらに本音を言えば、風邪ぐらいで病院に来る必要はありません。たいていの風邪なら、3~4日、暖かくしてゆっくり家で寝ていれば、ほとんど自然に治ります。それでも治らないときに、初めて病院を訪れれば十分です。(医師の奥仲哲弥氏)

「年齢のせいですね」

体の不調をなんでも年齢のせいにされると、カチンとくるのはわかります。でも加齢によって、あちこちにガタが出るのは当たり前です。医者としては「そこを自覚してメンテナンスをしっかりしてくださいね」と言いたいわけです。自分が乗っているのはもはや「新車」ではなく、40~50年物の「中古車」なんだと思っていただきたい。私自身、60歳を超えた今、昔できたことをまったく同じようにはできません。例えば、以前は2日連続でゴルフをしても平気でしたが、今は月に1度でも怪しいものです。プレー当日は以前より30分早く着くようにして、入念にストレッチをします。終わった後は、湯船に入りながら丁寧に足を揉んでほぐしています。そうしないと、翌日の手術に響いたら困りますから。(奥仲医師)

「炎症を起こしていますね」

これは非常によく言うセリフです。「炎症」をわかりやすく理解するために、外部から入ってきた敵と体の防御機構が戦っている様子をイメージしてください。その結果、戦いの現場がボロボロになった状態を炎症といいます。具体的には、腫れたり、熱くなったり、痛くなったりという症状が出ます。

例えば風邪であれば、喉にウイルスが入ってくると、そこに免疫細胞が集まって大騒ぎを起こします。ウイルスが脳や心臓などに行って大事にならないように、水際で食い止めているわけですね。もちろん喉以外にも、つま先やお尻の穴から、腸、胃、脳などまで、体中のあらゆるところで、さまざまな症状となって現れるのが炎症です。ただ、こうしたことをあまり細かく説明しようとしても患者さんには伝わりにくい。そのため、「炎症」という言葉で若干まるっと誤魔化している感は否めないかもしれません。

患者さんとしては、炎症自体を治してほしいと思うのでしょうが、炎症をすべて抑え込むのがいいかどうかは、いまだ議論のあるところです。喉の痛みや頭痛を抑える薬はありますが、それはただ辛い症状を抑えるだけにすぎません。(医師の中山祐次郎氏)