企業でも使える、悪魔の弁護人システム

【菊澤】日本企業はバブル崩壊以降、米国流に株主利益を重視し、経済合理主義を追求するようになりました。その流れに沿うように、大学でも1年生から起業家を目指してファイナンスなど実務の勉強をどんどんするようになっています。

作家・元外務省主任分析官 佐藤 優氏

ただ、本当にそれでいいのでしょうか。若いうちにもっとやるべき大事な勉強があるはずです。その意味で、私はやはり価値判断を身に付けることが大切だと思うのです。価値判断とは、好きか嫌いか、良いか悪いか、正しいか正しくないかを判断することです。それなら簡単だと思う人もいるかもしれません。しかし、価値判断は主観的なので、優秀な人ほど避けようとします。ですが、何が儲かるのか、どうすれば儲かるのか、何が売れるのか、損得計算をしても確固たる解答が出るわけではありません。最後は、価値判断なのです。それが今の大学生には欠けているように見えます。

【佐藤】わかります。今、おっしゃったことはすごく重要です。

【菊澤】私たちの世代はドイツの社会学者であるマックス・ウェーバーに大きな影響を受けてきました。客観性が良しとされ、主観的であること、つまり、価値判断は良くないとされてきました。しかし、もうそこから脱却しなければなりません。主観的であれば、その責任を取ればいいのです。

【佐藤】「主観」は、英語ではサブジェクト、ドイツ語だとズプイェクトですね。「主体」と訳すこともできる。主体的に取り組むと言えば、聞こえ方は全然違ってきます。

【菊澤】そうですね。自由、自律的な感じが伝わりますね。

【佐藤】合理的に判断しているつもりでも、人間はすべての情報を得ているわけではありません。自分では合理性を追求していると思っても、実際には非合理な選択をしてしまうことがある。そのことに気付かなければなりません。

【菊澤】そのとおりなんですよね。