日本に来る外国人観光客が急増している。その結果、各地では、混雑やマナー違反、景観や文化の破壊などの「観光公害」が起きている。このままでいいのか。京都在住の東洋文化研究者アレックス・カー氏とジャーナリストの清野由美氏は「観光産業の育成は日本に残された数少ない活路。受け入れないという選択肢はない」と指摘する――。

※本稿は、アレックス・カー、清野由美『観光亡国論』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

1年で「品川区1つ分」の人口が減っている

そもそもなぜ、日本には観光産業が必要なのでしょうか? ここで日本が抱えている社会課題に基づいてお話ししていきましょう。

戦後の高度経済成長を背景に、前世紀の日本ではベビーブームや地方から都会への労働力の移動が起こり、都市部では「人口増加」と「住宅不足」が大きな社会課題でした。

しかし21世紀に入ると、社会は少子化、高齢化にさらされ、経済も成長速度を落としていきます。課題は「人口減少」「空き家問題」と、対極のものになりました。

(図表1)は総務省統計局による日本の総人口の推移です。

統計によると、2016年から17年の1年間では35万2000人が、また17年から18年の1年間では40万1000人が減少しました。

(図表1)1年間で40万1000人が減少(画像=『観光亡国論』)

35万人から40万人という人口は、東京23区では品川区、県庁所在地では岐阜市、宮崎市、長野市に匹敵します。わずか1年のうちに、大きな行政区がなくなってしまうと考えると、事態の深刻さがよく分かります。

(図表2)は、世界銀行が調査している、日本の農村部人口の推移です。1975年から2000年まではほぼ横ばいでしたが、それ以降、21世紀になってから激しい傾斜を描いて人口が減っていることが見て取れます。

(図表2)21世紀に入って農村部人口が激減(画像=『観光亡国論』)

とりわけ日本において、農村部の人口減少は深刻な問題を引き起こします。なぜならば、日本のシステムは労働力、エネルギー、食べ物と、生活に必要なすべてを、農村部を含めた地方に依存しているからです。

都市民の暮らしを支えている地方と農村部が凋落するとなれば、経済の中心である都市もそれに伴って力を落としていくことは必至です。

観光産業の育成は日本に残された数少ない「救いの道」

さらに(図表3)は、野村総合研究所が2018年6月に発表した日本の空き家数と空き家率の推移と、2033年時点までの予測値です。

現時点で全国の空き家数がすでに1000万戸を超えているのも驚きですが、このままで行くと、33年には2000万戸近くにまで達することが見込まれており、ショッキングな予測になっています。

(図表3)現時点で空き家数は1000万戸を超えている(画像=『観光亡国論』)

人口減少と空き家問題は、間違いなく日本が抱える大問題です。その要因は複雑に絡み合っており「これをやればすっきりと解決します」という、即効性のある対策はなかなか生み出しにくい。しかしその中にあっても、成長余地が十分に残された観光産業の育成は、日本にとって数少ない救いの道といえるのです。