企業を「反日認定」して嫌がらせをする人たちがいる。ネット上のデマを信じ、SNSでの誹謗中傷や嫌がらせの電話を繰り返すのだ。長年そのターゲットとなっているのが、孫正義氏とソフトバンクグループである。昨年の通信障害騒動で蒸し返された「白い犬の妄想」について、評論家の古谷経衡氏は「ゼロ年代からの『ネトウヨあるある』だ」と指摘する――。
2019年2月16日、第3四半期の決算説明会で話す孫正義ソフトバンクグループ会長兼社長(写真=時事通信フォト)

「ソフトバンクは反日企業」というツイート

昨年10月17日付の日本経済新聞の名物コラムに、「孫正義氏を経団連会長に」という記事が載った。単なる推薦記事なので「待望論」の一種だが、実現すれば快挙だ。孫氏はソフトバンクグループの総帥として、常に日本のIT業界をリードし、日本のブロードバンド普及の立役者であり続けている。

しかしソフトバンクに対する論評は必ずしも順風のモノだけではない。昨年12月19日、東証1部に上場したソフトバンクは「平成最後の大型IPO」と期待されたが、設定価格1,500円を下回る状態が続いており、2019年1月23日現在でも1,500円を一度も上回っておらず、個人投資家の中では失望感が肥大している。

加えてソフトバンクの上場に前後する昨年12月6日、ソフトバンクの通信障害が起こった。大手キャリアで通話・通信が不可能になるという事態は大混乱を招き、ネット上では不便さに喘ぐ声があふれた。障害を受けて解約者も多数現れたという。通信会社が通信で不具合を起こしたのだから、批判も解約も当然であろう。

ネットでは時を同じくして、ネトウヨによる「ソフトバンクは反日企業だ」というツイートが盛んに流れた。そのツイートの数々に私は頭を抱えてしまった。そこにはソフトバンク、そして孫正義氏に対する陰謀論、今回紹介する「白い犬の妄想」、つまりデマが撒き散らされていたからである。

韓国人への差別的な蔑称とともに、「孫正義は信用できない」と書き連ねるものも多数あった。もちろん経営者として信用できるか否か、ソフトバンクの契約をどうするかは、各人の自由な判断である。しかし、差別的な言説、さらに「明確なデマ」を撒き散らすのは害悪としかいいようがない。

「韓国の携帯電話会社」という認識

孫氏とソフトバンクグループは、ネット右翼からは長年目の敵とされ、唾棄されてきた。その最大の理由が、孫氏が在日韓国人二世であるという出自を切り取ったものである。孫氏は1990年に日本に帰化して名実ともに日本人同胞となっているが、とにかく在日コリアンと聞いただけで脊髄反射的に憎悪感情に火をともすネット右翼には、この出自だけで孫氏とソフトバンクは呪詛の対象でありつづけるのである。

結局ネット右翼の攻撃対象は、後天的に帰化しようと日本社会に幾ら貢献しようと、その父祖が朝鮮半島に由来を持つ、というだけでNOなのであり、何の思想性もない。よってそこに主義=イズムなんというたいそうなモノなど一切無いのである。

私の知るあるネット右翼は、ソフトバンクの携帯に加入しないよう、既にソフトバンクと契約のある友人や知人に解約と「国産キャリアへの乗り換え」を推奨する運動を私的に行っている、と豪語していた。

彼女の頭の中では、ソフトバンクは「国産キャリア」ではなく「韓国の携帯電話会社」という認識であり、KDDI(au)とNTTドコモだけが民族キャリアだというのだから噴飯モノである。こういった話は、私の周囲に一人、二人といたのではなく、何十人も「孫正義が在日韓国人で帰化人だから」という理由だけで、「携帯電話はソフトバンク以外のキャリアを使用する」という私的運動を展開していたものに遭遇したことがあった。

ネット右翼の中には、韓国発祥の企業という理由でLINEを使わなかったり、ロッテやロッテリアのものを食べない、と公言したりするものも稀にいる。個人的に不買、不使用を貫くのは、ソフトバンクを使わないこともふくめてもちろん勝手だが、ネットに公で、不当に中傷することは、当該企業に対する深刻な営業妨害と言ってもいいだろう。

このように異常なネット右翼の「ソフトバンク忌避運動」は、ゼロ年代からかなり濃密にこの界隈で見ることのできる「ネトウヨあるある」のひとつである。