AI、フィンテック、電気自動車など新しい技術が台頭しはじめ、時代の潮流が変わりつつある。本号より佐藤優氏が企業役員や学者と対談し、これからの時代を読み解く連載を開始する。1回目は、総合商社・丸紅の國分文也社長との対談をお届けしよう――。

仕事熱心な人が陥る失敗

【佐藤】AIなどの技術革新が進む中で、商社の仕事が失われていくのではないかという危機感もあるのではないかと思います。その前にまず、基本的な商社の仕事の特徴を伺いたいと思います。

作家・元外務省主任分析官 佐藤 優氏

【國分】はい、今日はよろしくお願いします。

【佐藤】会社の総合力という観点で言えば、商社の特徴は教育にあると思います。例えば、商社パーソン(商社マン)の使うロシア語というのは、ものすごく勢いがあって、カチッとしゃべるいいロシア語です。一方、外務省ではロシア語通訳をやりたがらない人が多い。それはなぜか。もしできるようになってしまうと難しい通訳をやらされるからです。通訳はノートテイカーも兼務しますが、もし誤訳した場合はすべて責任を取らされるのです。政治家は怒るし、上司も守ってくれない。だから、みんなやりたがらないのです。商社の語学教育では、どういったところにインセンティブを持たせているのでしょうか。

【國分】例えば、中国の要人に会って、非常にきれいな中国語で会話ができるということは、ひとつのバリューだとは思います。ただ、中国語でもロシア語でも、基本的には仕事ができるかどうかのほうが重要です。

【佐藤】外務省でもいかに情報を取ってくることができるのか。どうやって相手に食い込んで、どれだけ友達をつくれるかがポイントになります。いくらきれいな言葉をしゃべれるようになっても、そこができなければダメなのです。

【國分】当社も基本的には実践主体です。どんなに発音がまずくても、仕事を取ってくる人は取ってくる。そこが肝心なのです。実践から離れたアカデミックな語学は必要ないと思っています。