自動翻訳機ができれば、英語学習は不要になるのか。答えはNOだ。脳科学者の茂木健一郎氏は「現地の人と同じように喋れなければ仲間に入れてもらえず、時代とともに変わる“生”の言葉を捉えきれない」という。イーオンの三宅義和社長が、茂木氏にそのわけを聞いた――。(第2回)

5歳の女の子は「ウプヌシ」と言った

【三宅義和氏(イーオン社長)】「自動翻訳機ができると英語を学ぶ必要がなくなるのでは」という話をよく聞くのですが、茂木さんはどうお考えですか?

脳科学者の茂木健一郎氏

【茂木健一郎氏(脳科学者)】それは違うと断言できます。学生にもそういう考えが多くて困っています。なぜ英語を学び続ける必要があるかと言うと、言葉は常に変化しているからです。例えば日本では2017年に「忖度」という言葉が流行って一時期みんな使っていましたけど、2018年に入ったら会話で使われなくなりましたよね。もしいまAIが「忖度」という言葉を使ったら、日本人の耳からすれば違和感を覚えるはずです。ようは、言葉というのは常に「生」なんです。

例えば、最近、僕の知り合いが5歳の娘さんから「パパ見て、この動画のウプヌシがね」と言われたそうなんですよ。ウプヌシと言われてもわからないですよね。よくよく聞いたら、ウプヌシというのは「動画をアップロードした人」だと。ひらがなで「う」、小さなアルファベットの「p」、神主さんの「主」で「うp主(ウプヌシ)」。英語の「up」をカナ入力すると「うp」になるんです。

元々はネット用語ですけど、それを5歳の女の子が普通に「ウプヌシ」と言う。言葉というものはそうやって常に変化していきます。そして、ネイティブは常に生の言葉を使うことでお互いが仲間だと認識しあうものです。

「#Me Too」の本当の意味

【三宅】そういう意味では、英語も当然変わっていきますよね。

【茂木】はい。最近だと「Me Too(ミートゥー)」がそうですね。SNSで使われたハッシュタグの「#Me Too」がきっかけで、そこから「女性の権利がちゃんと守られなければいけない」という意味合いで使われるようになりました。ただ、最近ある外国人としゃべっていたら、「2匹目のドジョウ」という意味で使っていたんです。「あいつらが成功したんだから、俺たちも#Me Tooでやろうかな」みたいな使い方です。こうやって短期間の間に意味が変わることもよくあります。

あと新しい言葉もどんどん生まれますよね。たとえば英語には「mansplaining(マンスプレイニング)」という言葉があります。「man(男性)」と「explain(説明)」が合体した新語です。男性が女性に対して少し自慢げに教えたりすることがあるじゃないですか。女性は答えを知っているのだけど男性の顔を立てるために知らないふりをする、みたいなことをアメリカ人もするそうです。その時の男性が得意げに説明するさまのことを「mansplaining」と言います。言葉は時代状況とともに変わります。