できることなら風邪にもインフルエンザにもかかりたくない。かかったら一日でも早く治したい。そんなわがままに最新の医学はどうこたえてくれるのか。大阪大学大学院で病理学を教える仲野徹教授は「風邪を早く治そうと『ビタミンC』などのサプリメントを摂取しても、大きな効果は期待できません」という――。

※本稿は、仲野徹『(あまり)病気をしない暮らし』(晶文社)の一部を再編集したものです。

インフルエンザは別物と理解しよう

まず、風邪とは何なんだろうかと、またまた広辞苑をひいてみました。そこには「かぜ(風)5」とあります。さよか、と思ってそこを見ると「ア)風の病 イ)(風邪と書く)感冒」とあります。それやったら、風邪のところに「感冒」と書けよ、気のきかん。で、いよいよそこには「身体を寒気にさらしたり濡れたまま放置したりしたときに起こる呼吸器系の炎症性疾患の総称。アデノウイルス・コロナウイルス・ライノウイルスなどが鼻腔・咽頭・喉頭などに感染することによる。感冒」とあって、なるほどの定義です。

一方、インフルエンザをひくと、「インフルエンザ―ウイルスによって起こる人獣共通感染症。人で多くは高熱を発し、頭痛・四肢疼痛・全身倦怠・食欲不振などを呈する。流行性感冒。流感」とあります。風邪ひき、と言ったときに、人によってはインフルエンザも含めてしまうことがあります。が、広辞苑さまもおっしゃっておられるように、インフルエンザ=流行性感冒は一般的な風邪=感冒とは別物なのです。ということで、以下、単に風邪と書いたら、インフルエンザは含まない、というようにご理解いただきとう存じます。

歳をとればとるほどかかりにくくなる

勝手に「風邪のバイブル」と認定している『かぜの科学:もっとも身近な病の生態』(ジェニファー・アッカーマン、ハヤカワ文庫NF)という本があります。その本によると、米国では、年間延べ10億回風邪にかかり、外来患者数だけで1億人にも達するとのことです。結果として、患者達は何十億ドルも治療に費やしており、欠勤による経済損失は600億ドルにもなるそうです。一人あたり年間3回程度、経済損失は2万円くらい、ということになりますから、おおよそ日本の実感と同じような感じでしょうか。

※写真はイメージです。(写真=iStock.com/supitchamcsdam)

これだけのダメージがあるにもかかわらず、残念ながら、風邪についての研究はあまり進んでいません。大きな理由は、放っておいても数日たてば治るということ、そして、原因ウイルスがたくさんあるので研究が難しいということ、です。

インフルエンザを引き起こすのはインフルエンザウイルスです。しかし風邪ひきに対応する「風邪ウイルス」などというものは存在しません。広辞苑にあるように、何種類ものウイルス、おそらくは200種類以上ものウイルスが風邪を引き起こすと考えられています。

200種類もあるウイルスのうちどれかに感染して風邪をひくと、そのウイルスに対して免疫ができます。しかし、原因ウイルスは総数200種類もあるので、ひいてもひいても、別の種類のウイルスによる風邪をひくのです。

少し意外かもしれませんが、統計的には、歳をとればとるほど、風邪に罹りにくくなることがわかっています。これは、いろいろな種類のウイルスの風邪に罹って、それらのウイルスに免疫ができていくためと考えられています。歳とっても、悪いことばかりじゃなくて、ええこともあるんですな。