2006年に転職した人の数は、前年比で6万人増えて346万人と過去最高になった(総務省調べ)。景気回復で、企業が即戦力となる人材を積極的に採用しているからだ。

しかし、培ったキャリアを生かして転職や再就職する際には、注意が必要だ。

まず「競業避止義務」違反。これは退職者に対して、会社側が就業規則や誓約書、合意書、特約などを根拠に、同業他社への転職を一定期間、禁止するというもの。企業の労使問題に詳しい石井妙子弁護士が、次のように解説する。

「退職後も一定期間はライバル企業に転職しないといっても、憲法22条で『職業選択の自由』が保障されているし、再就職させないとなれば生活できなくなってしまう。退職時に転職禁止の誓約書にサインしたとしても、その有効性は公序良俗(民法90条)の観点から厳しくチェックされ、限定的に解釈されます」

石井弁護士によると、競業禁止の誓約を巡って、かつて籍を置いていた会社が訴訟を起こした場合、裁判所は以下の4点に着目して判決を下すという。

(1) 在職中の地位や職務。在職時に経営の秘密を知る幹部職、技術者であれば、新製品や最先端技術の開発に携わっていたか否か。
(2) 禁止の目的。営業秘密など企業として正当に保護されるべき利益のためか。
(3) 地域・対象職種・禁止期間。制約の大義名分があったとしても、どの程度のレベルなのか。
(4) 代償措置はあるか。通常は退職金の割り増しだが、多くの場合、自己都合退職となるので上乗せは難しいといわれる。

「世の人材流動化の流れを受け、最近の判例は、転職の自由をより尊重する傾向にあり、競業禁止の誓約や特約は、以前ほどの効力はありません。むしろ、退職者に対する心理的な抑止効果を狙ったものだといえます」(石井弁護士)