優秀なビジネスパーソンは「話し上手」といわれる。だが実際には「トーク力には自信がない」と答える人が多い。なぜイメージと矛盾するのか。7人のプロに話を聞いた。第1回はレクサス販売の「提案する力」――。(全7回)

※本稿は、「プレジデント」(2018年12月17日号)の掲載記事を再編集したものです。

最初は電話もできない「ガラスのハート」

港区の青山は、高級車販売の激戦区だ。そこで好成績を収めた者だけに贈られる社内賞「グランドスラム」を8年連続で受賞しているのが、「レクサス青山」のセールスコンサルタント・藤崎丈明さんである。「今でも話すのは得意ではありません」と照れる藤崎さんが、穏やかに語った。

もともと口下手な私は、入社したての頃はお客様とお話をするのが憂鬱で仕方なく、会社に行くのも嫌でした。当時の配属先は、東京トヨペット・深川店。お客様に電話をかけ、点検などのご案内をするのが怖くて仕方ありません。「用件は何だ?」と言われ、「点検です」と言うのが精いっぱい。「もういい!」と電話を切られたり、パニックになって名乗りもしないうちに自分から切ってしまうことも。上司からは「ガラスのハート」と言われていました。

レクサス青山 セールスコンサルタント 藤崎丈明氏

変化のきっかけは、先輩社員にかけてもらった言葉でした。「会社に来たくないだろう?」と言われ、「はい、来たくありません」と正直に答えたのです。すると「それはおまえが上司や会社のために仕事をしているからだよ。休日にやりたいことは何だ? 自分のために仕事をしろ」と言われたのです。それまで人の反応ばかり気にしていましたが、少しだけ自分本位になると、人と接するのも仕事と割り切れるようになりました。それから徐々に話すことへの苦手意識がなくなっていったのです。

仕事は自分のためにしますが、接客や商談の際は、常にお客様の立場に立つことを心がけています。営業というと、お客様から「買います」という言葉を引き出すのがゴールというイメージがあるかもしれません。しかし私は、お客様に自分から「買います」とは言わせたくないのです。昔、奥様に相談しないで購入された方が、「なんでこの車にしたのよ。あなたが買いたいって言ったんでしょう?」と怒られている光景を何度か見ました。そのとき、「仕方ないだろう。だって、藤崎が強引に勧めてきたんだよ」という言い訳ができれば、お客様は悪者にならずに済みます。そこで私から選択肢をあれこれ提示して、「藤崎が提案しているのだったら、これにしようか」という流れで決断してもらうことを目指しています。カッコよく言ってしまえば、車というよりも、自分を買ってもらうというスタイルでしょうか。