なぜ「アップルの業績下方修正」に株式市場が動揺したか

2019年1月2日の米国時間、アップルのティム・クックCEOは投資家向けの書簡を発表した。その中で、アップルは2018年10~12月期の売上高が従来の予想を下回る840億ドル程度にとどまる見通しであることを明らかにした。

これを受け、引け後の取引にてアップルの株価は約8%下げた。この“アップルショック”(アップルの業績下方修正見通しを受けた世界的なリスク回避の高まり)を受けて、3日アジア時間の金融市場は、円が米ドルに対して急伸するなど、不安定な動きが広がった。

2010年6月7日、「iPhone4」を発表するスティーブ・ジョブズ氏。この頃からスマートフォンに大きな変化は起きていない。(写真=AFP/時事通信フォト)

重要なことは、クックCEOの書簡公表を受けて、アップルというIT先端企業のイノベーション停滞を懸念する市場参加者が増えたことだ。アップルの業績下方修正は、リーマンショック後の世界経済の成長と安定に重要な役割を果たしたスマートフォンの需要が一巡しつつあることを示唆している。アップルショックは、今後の世界経済に対する市場参加者や政策当局の警戒感を高めた。

足元、米国経済は労働市場の回復に支えられ、緩やかな回復基調を維持している。米国を中心に株価下落にはやや行き過ぎた部分もあると考えられる。2019年前半は政策期待も加わり、株価が持ち直す可能性はある。ただ、世界経済を支えてきた米国経済において、成長をけん引してきたIT先端企業のイノベーションに陰りが出始めていると考えられることは軽視できない。

経営破綻の危機を救ったジョブズの手法

故・スティーブ・ジョブズらが創業したアップルは、米国経済のダイナミズムを象徴してきた企業だといえる。重要なことは、ジョブズがイノベーションを発揮することによって、従来にはない新しい商品を生み出してきたことだ。

iPhoneなどのヒットに目が奪われるがあまり忘れがちだが、過去にアップルは経営破綻の危機に瀕したことがある。その状況から同社を立て直したのがジョブズだった。1985年にジョブズは周囲との対立からアップルを去った。1996年にアップルの経営に復帰した彼は、プロダクト・ポートフォリオ(自社の商品ラインアップ)を見直し、7割程度のプロダクトの生産打ち切りを決定したのである。

ジョブズは浮き出た経営資源を、これまでにはない、新しい商品の開発プロジェクトに再配分した。新商品の開発において、ジョブズはデザインの美しさ、シンプルさ、従来にはないスマートな機能の提供などに徹底的にこだわった。それがあったからこそ、アップルは世界中の人が「ほしい!」と思ってしまうプロダクト(ヒット商品)を世に送り出すことができた。

2001年、アップルはiPodおよびiTunesを生み出した。それは、CDなどの音楽再生ソフトを購入することが当たり前だった私たちの常識を覆し、デバイスをネットワーク環境に接続し、好きな時にコンテンツを楽しむスタイルを当たり前にしたのである。