ディズニー製作のCGアニメ『シュガー・ラッシュ:オンライン』。一見すると「子供向けファミリーアニメ」のようですが、その内容は非常にチャレンジングです。ライターの稲田豊史さんは「主人公の少女には『王子様』も『ドレス』も必要ない。ディズニーが描き続けてきた『プリンセス』の概念を大きく更新する映画だ」と分析します――。
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『シュガー・ラッシュ:オンライン』

■製作国:アメリカ/配給:ディズニー/公開:2018年12月21日
■2018年12月22日~23日の観客動員数:第1位(興行通信社調べ)

前作も「ただのファミリー映画」ではなかった

ディズニー製作のCGアニメ『シュガー・ラッシュ:オンライン』が初登場第1位となりました。初週末土日2日間の興収は約4.5億円。これは興収30億円を記録した前作『シュガー・ラッシュ』(2013年3月公開)の初週末興収比133.5%。好スタートを切った形です。

前作『シュガー・ラッシュ』は、ゲームセンターにある古いゲームの悪役キャラである大男ラルフが、別のゲーム内に迷い込み、そこにいた少女ヴァネロペとともにゲーム内世界を冒険する物語でした。邦題の『シュガー・ラッシュ』とは、ヴァネロペが住んでいるお菓子でつくられた国の名前、かつヴァネロペがレーサーとして活躍するゲーム名です(なお原題は『Wreck‐It Ralph』)。

少女ヴァネロペと可愛らしいお菓子の国のビジュアルは、“典型的なファミリー映画”を思わせましたが、実は30~40代男性がニヤリとする懐かしいゲームネタの宝庫でもありました。彼らが10代の頃に親しんだ、日本でもなじみ深い80~90年代のゲーム(『パックマン』『スーパーマリオブラザーズ』『ストリートファイターII』『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』など)のキャラクターが登場したり、著名ゲームのオマージュがふんだんに散りばめられていたりしたからです。小学生の子供を連れてきた若いお父さんも退屈しない。そんな計らいに満ちていました。

また、不具合(ヴァネロペに生じたバグ)のせいで仲間はずれにされる彼女の孤独や奮闘を通して、社会においては「不具合」も尊重されるべき個性のひとつであるという、ポリティカル・コレクトネスの比喩的な表現も、広く大人客の心も掴みました。

「インターネット」がゲーム世界を大きく変えた

その続編『シュガー・ラッシュ:オンライン』の初動の客層に、親子連れのファミリー客だけでなく、30~40代の男性客や、自我の葛藤や社会との軋轢に悩む10~20代男女が相当数含まれていたのは、ひとえに前作の内容を踏まえた期待があったからでしょう。「これは、ただの子供向けファミリーアニメではないはずだ」という。

『シュガー・ラッシュ:オンライン』はその期待に十二分に応えつつ、今回新たに加わった「インターネット」という要素によって、物語にさらなる広がりをもたせました。

ラルフとヴァネロペはある目的のため、ゲームセンターに設置されたWi‐Fi機器(!)を経由してインターネットの世界に赴きます。その世界では現実世界と同じく、Google、Facebook、Amazon、Twitter、Snapchat、楽天といった、実在のITサービスが登場します。筆者が鑑賞した劇場では、見たことのあるサービス名が登場するたびにキャッキャと盛り上がる父子の姿もありました。

「ポップアップ広告」「ダークネット」といったインターネットの専門的な要素も、擬人化やわかりやすいビジュアルによって、ストーリーに有機的に絡んでいます。「動画投稿サイトでバズらせることで金を稼ぐ」ことの意味を、展開によって自然にわからせる点も実に秀逸でした。物語全体が「初心者でもわかるネット講座・2018年版」として成立しているのです。