2018年7月、相続関連の民法改正が国会で決まった。「配偶者居住権」が誕生するなど、1980年以来の大幅な見直しとなる。改正のポイントはどこか。どんな準備が必要なのか。今回、3つのテーマに応じて、各界のプロにアドバイスをもとめた。第2回は「献身介護と相続」について――。(第2回、全3回)

※本稿は、「プレジデント」(2018年9月3日号)の掲載記事を再編集したものです。

介護貢献で簡単に相続分が増えない現実

財産を遺して亡くなった人を生前に介護した相続人は、その貢献度に見合った相続分を要求することができる。これを「寄与分」という。一見嬉しい制度に思えるが、現実は厳しい。

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「現行の制度にはいくつかの問題があります。そのひとつは、相続人以外の人は寄与分を主張できないことです」

そう説明するのは、相続・遺産分割や介護トラブルを専門とする弁護士の外岡潤氏だ。

「たとえば妻が夫の親を介護していた場合、この妻には寄与分を主張する権利がありません。妻の貢献を夫のものと見なして、夫が寄与分を主張するのは可能ですが、たとえ主張できても、寄与分を認められるためには相当に高いハードルを越える必要があります」

相続人の誰かが寄与分を主張し、他の相続人がそれに同意、金額も協議で決まれば何の問題もない。だが協議が紛糾した場合は、家庭裁判所に決定を委ねることになる。

家庭裁判所から認められるためには、以下の要件に沿って「特別な寄与」があったかどうかが問われる。それは「療養介護を必要とする病状であったこと。目安としては要介護2以上」「無償、またはそれに近い状態で介護していたこと」「少なくとも1年以上の継続性」「他の仕事をせず、介護に専念していたこと」などだ。さらにこれらによって、高額な施設へ入所せずに済んだなど、「財産の維持または増加に貢献した」という結果がなくてはならない。

しかも寄与分を認められたとしても、その額は決して多くない。13年間の介護に対して、200万円の寄与分だけが認められた裁判例もある。

それでは、2018年7月に相続関連の民法改正法が成立したことで、寄与分に関しては何が変わったのだろうか。

「相続人以外の被相続人の親族も、寄与分を主張できるようになりました。つまり夫の親を介護していた妻は、夫の生死にかかわらず、相続人に対して特別の寄与料を請求できるようになったのです。寄与分が認められるためのハードルの高さなどは変わらないので、根本的な問題解決としてはまだ遠い印象です。それでも『介護をした者にも権利があって、救済されるべき』という話が通りやすくなるという意味では、価値のある法改正だと言えます」(外岡氏)