「森友スクープ記者はなぜNHKを辞めたのか」

安倍官邸vs.NHK』(相澤冬樹著・文藝春秋)が書店から消えた。

私は、この原稿を書くため12月18日に、この本をAmazonで注文しようとした。だが、在庫切れで、届くのが28日だというのだ。

それでは間に合わないので、楽天ブックスで探してみたが、やはり22日、土曜日でないと届かない。夕方、高田馬場駅前の芳林堂書店を覗いたがなかった。

次の日、日本橋・丸善へ行ってみた。だが、一冊も見つからなかった。仕方なく、ダメ元でオフィス近くの文禄堂早稲田店(元あゆみBOOKS)へ行ってみると3冊置いてあった。

これは何を意味するのか。たしかに「週刊文春」は12月20日号で、相澤氏の手記「森友スクープ記者はなぜNHKを辞めたのか」を掲載したから、それなりの反響はあったのだろう。

本はAmazonを見ると12月13日発売となっている。初版は2万部ぐらいではないか。その記事の反響が大きかったため5万部程度を増刷したようだ(その後さらに3万部増刷したという)。

この本を文藝春秋で出そうと決めたのは新谷学・前週刊文春編集長だそうだから、何か仕掛けた匂いはしないでもないが、さすがである。

東京都渋谷区のNHK放送センター。東京五輪後に建て替えが行われる予定だ。(写真=時事通信フォト/朝日航洋)

大書店から一斉に消えるほど売れている背景

初版がなくなり、重版が出るまでにタイムラグがあるから、書店からその本が消えるということはある。だが、この手の本は、じわじわ口コミで売れていくので、Amazonや丸善などの大書店から一斉に消えるというのは、私の経験から見ても、あまりない。

それに、早稲田の小さな書店には3冊も残っていたのだ。安倍官邸が買い占めたというのは考えにくい。もしそんなことがバレたら大事になる。

昔は、本を売るために、出版社が大手書店を回って買い占め、ベストセラーを“作り出す”ということをやっていた時代はあったが、現在は、一人で何十冊も買えばチェックされるから、この手は使えない。

NHKは、19日、「元記者が森友学園問題の報道における同局の内部事情を描いた本を出版した。上層部の意向で原稿が『書き直された』『おかしな介入』があった――などとする内容」(朝日新聞12月20付)に、「虚偽の記述がある」と反論している。

NHKが買い占めた? 可能性はゼロではないとは思うが、不可思議である。

「名誉会長に安倍昭恵夫人が就任」をデスクに削られる

前口上が長くなった。相澤氏は8月までNHK大阪放送局で司法キャップなどを務めていた敏腕記者である。

とりわけ、森友学園問題を最初から追いかけ、数々のスクープを放ってきた。

森友学園に国有地が不当に安く売却されたという情報を掴み、名誉会長に安倍昭恵夫人が就任していたという原稿を書くが、デスクの判断でこの部分を削られてしまう。

8億円もの大幅な値引きがされていたというスクープも、放送は関西だけだったという。相澤氏は、「NHKの森友報道は忖度で始まった」と書いている。

安倍首相はこの問題を追及されて、「森友学園問題に、もし私や妻が関係していたら、総理も議員も辞める」と発言したのは去年の2月17日だった。

この言葉が独り歩きしていくのだ。