介護はひとごとではない。親や配偶者、そして自分自身にも介護が必要な時期がやってくる。「ハルメク 生きかた上手研究所」所長の梅津順江さんは「60、70代の子供が80、90代の親を看るといった“老老介護”だけでなく、60代以下の人を配偶者や子供が看る“若若介護”も過酷です」という。梅津さんが聞いた介護現場の声を紹介しよう――。

介護するということ、介護されるということの「真実」

「70代の親を見送るのと100歳の親を見送るのとでは意味が違う」

「ハルメク 生きかた上手研究所」では、シニア女性向け雑誌『ハルメク』(2018年12月号)の「介護」特集に向け、介護の現状を知ることを目的にグループインタビューをしました。インタビュー参加者は15人で、介護未経験者が3人、現在介護中が5人、介護経験者かつ現在1人暮らしが4人、介護・ヘルパー職に就いている者が3人です。

インタビューで最も印象に残ったのは、20年間、訪問介護のホームヘルパーの仕事をし、現在は実親の介護をしている67歳の女性が発した、冒頭の言葉でした。「60、70代の親の介護」と「80、90代の親の介護」は異なるというのですが、親の年齢により介護の大変さはどう変わるのでしょうか。

80、90代介護は、「体力」「孤独」がキーワード

80、90代の親を介護する場合、介護する子供の推定年齢は60、70代です。いわゆる“老老介護”の状況です。厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2016年)では、在宅介護している世帯の54.7%が、65歳以上の高齢者を同じ65歳以上の高齢者が介護している「老老介護」状態にある、という結果が出ています(図1)。

Sさん(65歳・女性)は、両親のダブル介護を1人で行った経験があります。56歳の頃に介護生活が始まり、それはトータル9年間続きました。

最初に認知症を発症したのは実母でした。以前から骨粗しょう症で付き添いが必要だったSさんの実母は78歳で認知症を発症し、その後、症状が悪化。最終的には要介護度5となった実母を在宅で85歳まで介護しました。また、ほぼ同時期に介護認定を受けた当時70代後半の実父(86歳で他界)は要介護度2でした。ダブル介護の大変さは筆舌に尽くしがたいものがあったに違いありません。

実家の近くに住んでいた年子の妹は、実父母から資金援助を受けていたにもかかわらず、実母の体調が悪くなってからぴたっと実家に来なくなったといいます。

会社経営をしていたプライドの高い実父は「お前が看たほうがよい」と言ったそうです。母に深い愛情を感じていたSさんは、「神様が与えた試練だ」と思い、体重35kgの母親を抱っこしてお風呂に入れました。また、夜中におねしょシートを父と母の2人分を敷いたり、便のかき出しをしたり、と孤軍奮闘でW介護をしたそうです。

自分の時間がなくストレスがたまり、胃腸・消化器系の病気になるなど、悲痛な介護生活ではありましたが、そんな中でもSさんが幸運だったのは、「お金の心配がなかったこと」に加えて「ケアマネに恵まれたこと」だと言います。ケアマネージャーは「母の介護レベルに合わせて入浴サポートの充実した介護サービス会社に変える」といった提案をしてくれたそうです。

こうした経験から、現在、90代の親を介護している女性の友人から「親を施設にいれたら親不孝か」と相談され、「そんなことは全然ない。決して自分を追い詰めちゃいけない。自分を罪深いなんて思う必要がない」とアドバイスしたと言います。