中国の13万円屋根付き四輪自転車

新興国を巻き込んだ世界的な電気自動車(EV)の開発競争に拍車がかかってきた。フォードが自動車の大量生産に道を開いてから約100年、車づくりの座標軸は、ガソリンから電気へと劇的なパラダイムシフトを遂げようとしている。自動車市場をめぐる潮流の変化について、村沢義久・東京大学総長室アドバイザーは次のように説明する。

「地球温暖化をいかに阻止するか、環境問題が緊急の課題になっていますが、それにはゼロエミッション(排出量ゼロ)を目標に掲げなければなりません。それは、『燃やさない文明(EVと太陽光発電を中心とした社会)』をいかに構築していくかであり、車づくりは明らかにEVにシフトしようとしています」

かつて自動車産業といえば、大手自動車メーカーとその傘下に連なる部品メーカーという、ピラミッド型組織に似た垂直統合モデルが当たり前とされてきた。1980年代以降、世界に覇を唱えた日本の自動車産業はその最高の成功例だが、駆動部分がガソリンから電気に替わることで、日本のビジネスモデルとは一線を画す新たなEV時代が今、幕を開けようとしている。

世界がEV新時代に突入する入り口にあって、村沢が最も注目するのが中国の動向である。それを「逆転の発想」と呼べばいいのか、現在数百万円もするEVから少しずつコストを下げていく方法とは全く違い、モーター、電池、タイヤなど必要最小限の部品を集めてEVを組み立ててしまうやり方なのだ。

ガソリン車と比べて構造が単純なEVは、主要部品が揃えば簡単に組み立てられる。すでに山東省などでは、農家の裏庭や町工場で盛んに製造され、日本円で13万円程度の超低価格で売られているようだ。ただし、EVといっても原始的なもので、村沢は「電動屋根付き四輪自転車」と冗談交じりに呼ぶが、山東省でつくられるこんな車こそ“EVの原点”であるとの認識から、先行きをこう分析する。

「今後のEV事業の推進役は新興の小さな企業群になると考え、私はそれらを『スモールハンドレッド』と呼んでいます。八百屋でもどこでも、女の人3人が2日もあれば車を改造できる時代になり、自動車産業そのものがスモールハンドレッドへと大きく移行していくでしょう」

既存の大手自動車メーカーによる寡占の時代が終わり、「100単位」のベンチャー企業や異業種からの参入が出てくると予測するのだ。