「あおり運転」事故で危険運転致死傷などに問われた石橋和歩被告に対し、横浜地方裁判所は12月14日、懲役18年を言い渡した。精神科医の片田珠美氏は「『あおり運転』をする人には、衝動制御障害、思考停止の状態、想像力の欠如が認められ、自己顕示欲と承認欲求が強い。また、危険な運転で味わった快感を忘れられず、依存症に陥っている可能性もある」と語る。あおり運転が多発する心理的メカニズムとは――。
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精神科医があおり運転する人の「やられたら、やり返す」を分析

昨年6月に起きた東名高速道路の「あおり運転」事故で、自動車運転死傷行為処罰法違反(危険運転致死傷)などに問われた石橋和歩(26)被告に対し、横浜地方裁判所は今月14日、懲役18年(求刑・懲役23年)の判決を言い渡した。

裁判長は、駐車方法を非難されて腹を立てたことが動機になったとして、「常軌を逸している」と述べた。たしかに、それくらいのことで腹を立て、「あおり運転」を4回も繰り返し、追い越し車線で停止させて結局2人を死亡させるのは、誘因と反応が不釣り合いな印象を受ける。

このように誘因と反応が不釣り合いなのは、多くの「あおり運転」に共通している。「あおり運転」をする側からすれば、急に前に割り込まれたとか、脇道から不意に車が出てきたというきっかけがあるのだろうが、そのせいでヒヤリとしたり、イライラしたり、ムカッとしたりしても、たいていの人は「ビックリした」「怖かった」などと思う程度で終わるだろう。

仕返ししたいという復讐願望を満たそうとする心理

ところが、なかにはそれだけではすまず、頭に血が上ってしまう人がいる。そういう人は、カッとなりやすく、「やられたら、やり返す」をモットーにしていることが多い。だから、クラクションを鳴らして威嚇したり、前方の車との車間距離を極端に詰めたりする攻撃的な行動によって、仕返ししたいという復讐願望を満たそうとする。

こうした攻撃的な行動を目の当たりにすると、「それくらいのことで、どうしてそこまで過激なことをするのか?」という疑問を抱く方が多いはずだ。つまり、「あおり運転」の本質は過剰反応にあるといえる。そこで、なぜ過剰反応するのかについて精神医学的視点から分析すると、次の3つの要因が浮かび上がる。

(1)衝動制御障害
(2)思考停止
(3)想像力の欠如

それぞれの要因について解説しよう。