あの“乙武不倫フィーバー”とは何だったのか

12月13日付の朝日新聞夕刊(東京本社発行)で、自らの半生を描いた著書『五体不満足』(1998年、講談社)で一躍有名になったあの乙武洋匡(おとたけ・ひろただ)さん(42)の写真と記事を見た。乙武さんについて書かれた新聞記事を見るのは久しぶりだ。

※編集部注:朝日新聞デジタルでは<「社会的に死んだ」乙武さん、再起の陰に松本人志の言葉>(2018年12月16日13時03分)として転載している。

2018年5月6日、「東京レインボープライド2018」に参加した作家の乙武洋匡さん。(写真=時事通信フォト)

週刊新潮(2016年3月31日号)が「『乙武クン』5人との不倫」との見出しを付けて暴露し、乙武さんの不倫行為を痛烈に批判した。

週刊新潮の記事はこんな具合だった。

「彼は、妻と3人の子どもがありながら、陰で想像を絶する『不義』を働いていた。参院選出馬が注目を集めている乙武クンの、まさかの乱倫正体」

この記事で清廉潔白な乙武さんのイメージが180度変わった。そして他の週刊誌やテレビもこぞって追いかけ、日本中が“乙武不倫フィーバー”と化した。

13日付の朝日夕刊の記事によると、マスコミから不倫をたたかれ、世間からも強いバッシングを受け、その後に離婚、参院選出馬断念……と苦境に立たされた乙武さんは昨年3月、日本を離れて1年間、世界37カ国・地域を巡っていたそうだ。

記事に添えられた写真はこれまでと変わらない車椅子に座った姿ではあったが、ぴったりの紺系色のスーツを身につけ、顔つきは凜々しくなっていた。

旅の途中、気に入ったオーストラリアのメルボルンに永住することも考えたというが、「いばらの道でも、日本で、マイノリティーを排除しない寛容な社会の実現に尽くそう」と思い直したという。

「マイノリティーを排除しない寛容な社会」をどう作るか

朝日夕刊の記事は、乙武さんの「国家から生産性がないと切り捨てられる可能性はだれにでもある」という言葉を伝えている。「生産性がない」というこの文句は、自民党の衆院議員の杉田水脈(みお)氏がLGBTを「彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」と月刊誌「新潮45」8月号で書いたことに由来する。

この記事に批判が出たことで、「新潮45」は10月号に特別企画「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」を掲載。特別企画がさらに批判を呼び、作家や文化人、書店、読者が次々と批判の声を上げ、新潮社本社前での抗議行動にまで発展した。結局、新潮社は9月21日に社長が談話を出して謝罪、その4日後の25日には休刊を発表した。

この休刊騒動では「生産性がない」とマイノリティーを切って捨てるように読めるところが問題視された。「杉田論文」と「新潮45」の考え方に幅や寛容さというものがあったら、休刊騒動にまでには至らなかったと沙鴎一歩は考えている。

乙武さん流にいえば、「マイノリティーを排除しない寛容な社会」の重要性、つまり寛容さが保たれた社会の大切さだ。

寛容の欠如。自分と違う意見はバッサリと切り捨てる。数の力を頼りにして国会の場で、反対の声に耳を傾けることなく、議論を尽くさずに短期間で法案を成立させようとする安倍政権の横暴さによく似ている。